顔面神経麻痺は治る?治らない?│帯状疱疹&ラムゼイハント症候群の治療

顔面神経麻痺(がんめんしんけい・まひ)は、治る病気です。

しかし、治らない人、後遺症を残す人も少なからずいます

 

子供の顔面神経麻痺(小児の顔面神経麻痺)は場合は、後遺症を残すことなく治癒することが多いです。

成人の場合も同様に後遺症を残す確率は低いです。

しかし、高齢者の顔面神経麻痺の場合は、後遺症が残る確率が高くなります。

 

顔面神経麻痺の診断│MRI&CTが必要

顔面神経麻痺を起こす原因はいろいろあります。

顔面神経麻痺の原因として、一般的なウィルス(ヘルペスなど)によるものが最も多いです。

中には、見逃してはいけない重要な病気(脳腫瘍・脳梗塞・耳下腺腫瘍)もあります。

これらは、疲れ、ストレス、不眠など、体に負担がかかっている状態で起こりやすいです。

  1. 疲れ、不眠、ストレス
  2. 一般的なウィルス(ヘルペスなど)
  3. 帯状疱疹ウィルス
  4. 炎症
  5. 脳腫瘍
  6. 耳下腺腫瘍
  7. 脳梗塞
  8. その他

 

顔面神経麻痺の診断にはMRI&CTが重要

顔面神経麻痺の正確な診断には, CT, MRI, 超音波検査などの画像検査は重要である.

綾仁, 顔面神経麻痺を起こした症例の画像をどうみる!, MB ENTONI (277): 11-18, 2022

 

帯状疱疹と造影MRI│医師向け内容

 

顔面神経麻痺の重症度を知る方法として、造影MRIがあります。

MRIを撮影するときにガドリニウム造影剤を血管に注射すると、『顔面神経の腫れ方』がわかるため、顔面神経麻痺が重症かどうかがわかります。

造影MRIで顔面神経麻痺の重症度がわかる

神経腫脹と造影効果は相関するため,造影効果が強いほど神経腫脹も強く炎症も高度に生じることから予後が不良となったと考えられた.

南方, 重症ラムゼイハント症候群患者における顔面神経腫脹と造影MRI, 日本耳鼻咽喉科学会会報 124(2): 157-158, 2021

 

顔面神経麻痺の後遺症を残す人

  1. 高齢者
  2. 重症の人
  3. 帯状疱疹を合併している人

帯状疱疹を合併している場合は、適切な治療を行っても、3割程度の方が何らかの後遺症を残すと言われています。

 

帯状疱疹による顔面神経麻痺│ラムゼイハント症候群

  •  ふつうの顔面神経麻痺 → 完全に治ることが多い
  • 帯状疱疹による顔面神経麻痺 → 後遺症を残しやすい

顔面神経麻痺を起こした原因が帯状疱疹ウィルスの場合、顔面神経麻痺は治りにくいです。

さらに、帯状疱疹が原因で顔面神経麻痺を発症してしまうと、同時に『治りにくいめまい・耳鳴り』を合併することもあります。

このように、帯状疱疹による顔面神経麻痺は、後遺症が残りやすい、特別な病気と考えるため、ラムゼイハント症候群(Ramsay Hunt 症候群)と別の名前で呼ばれることもあります。

 

帯状疱疹による顔面神経麻痺(ラムゼイハント症候群)の治療

ふつうの顔面神経麻痺も、帯状疱疹による顔面神経麻痺も、治療方法は『顔面神経麻痺診療の手引き』でだいたいの治療薬の量が決まっています。

麻痺の程度と状態を参考にしながら、身長・体重も確認して薬の投与量を決めて、治療を行っていきます。

また、顔面神経麻痺の治療の大原則は、『早く治療をした方が治る』です。

発症3日以内にステロイド治療(点滴とプレドニゾロンによる治療)ができると、後遺症を残す確率がグッと下がります。

顔面神経麻痺の治療を行うと、ウィルス性肝炎を発症することがあるため、B型肝炎ウィルスを持っている方なのかどうかもあらかじめ調べておく必要があります。

ステロイドや免疫抑制剤を使用するときは、最低でもHBs抗原は計測しておいた方が良いです。

 

引用: 山田, 顔面神経麻痺に対する薬物治療, MB ENTONI (270): 50-55, 2022

  1. ステロイド点滴(ソル・メドロール点滴)
  2. プレドニゾロン
  3. 抗ウィルス薬(バルトレックス・アメナリーフ)
  4. アデホス
  5. メチコバール
  6. 目薬(ヒアレイン点眼)

顔面神経麻痺の治療で特に大切なのは、ステロイド薬(点滴、プレドニゾロン)と抗ウィルス薬です。

上記の①②③の治療をどれだけ早く始められるかで予後が決まります。

顔面神経麻痺の抗ウィルス薬の投与量

  • 中等度麻痺 → バラシクロビル 1000mg/日 を 5日間
  • 高度麻痺または帯状疱疹 → バラシクロビル 3000mg/日 または アメナメビル(アメナリーフ)を400mg/日 を 7日間

山田, 顔面神経麻痺に対する薬物治療, MB ENTONI (270): 50-55, 2022

治療開始時期と治癒率の関係│顔面神経麻痺は早く治療した方が治る

  • 発症 3 日未満で治療開始 → 完全緩解 75%
  • 3 日~7 日未満群で治療開始 → 完全寛解 48%
  • 7 日後に治療開始 → 完全寛解30%

Murakami S. Treatment of Ramsay Hunt syndrome with acyclovir-prednisolone: significance of early diagnosis and treatment. Ann Neurol 41: 353-7, 1997

顔面神経麻痺で入院することもある│ステロイドの合併症に早期に気付ける目的で入院

ステロイド大量療法は高い治療効果が期待できる一方で,入院が必要なことや合併症のリスクもあり,重症例に限って適応になる.

寺岡, 顔面麻痺, JOHNS 38(9): 1190-1192, 2022

顔面神経麻痺に対するステロイド大量投与│1970年代からの治療

ステロイド早期大量投与(200~250 mg/日)とペントキシフィリン,低分子デキストランの混合点滴静注を行うと, Bell麻痺の96%が治癒した.

Stennert E:Bell’s palsy:a new concept of treatment. Arch Otorhinolaryngol 225(4):265‒268, 1979

 

顔面神経麻痺・ハント症候群は入院する?しない?

  1. ステロイド合併症の検出が早くなる
  2. ストレスを避けるため

顔面神経麻痺・ハント症候群で入院する目的は大きく2つあります。

 

入院目的の1つ目は、『ステロイド大量投与の合併症を、早めに見つけるため』です。

ステロイド大量投与時の怖い合併症は、『心臓の不整脈』です。

これらは、ステロイドパルス療法(ソル・メドロール500-1000 mg)では特に気をつける必要があります

しかし、ソル・メドロール 100-200mg程度のステロイド量では、起こりづらい副作用ですので、家族がいる患者さんの場合は、ステロイド点滴を行い、外来で経過観察をすることも多いです。

 

入院目的の2つ目は、『ストレスを避けるため』です。

自宅にいるとストレスが強くなる方は積極的に入院した方が良いです。

家の方がストレスが少ないと思われる方は入院を積極的にする必要はないのかもしれません。

顔面神経麻痺の入院

中等度麻痺以上の症例では可能であれば入院治療をお勧めし,ストレスを避け,安静にしていただくとともに,麻悼増悪を早期に確認するよう心がけている.

山田, 顔面神経麻痺に対する薬物治療, MB ENTONI (270): 50-55, 2022

 

顔面神経麻痺の手術治療│発症2週間で手術

顔面神経麻痺は、あまりにも麻痺が良くない場合は、手術を行う場合があります。

顔面神経麻痺の発症から14日目頃に、手術を受けないと効果がないため、それよりも早めに手術を検討しなければいけません。

発症8-10日頃に麻痺の状態を判断し、手術の適応があるかを検討する必要があります。

実際は、手術に回る例はそれほど多くはありません。

 

手術適応の条件として『重症でなければいけない』というものがあります。

神経が壊れた状態(ENoG 10%以下)での手術とならざるを得ないため、手術の同意(紹介の同意)が得にくい、という点で手術適応となりづらいです。

 

手術適応が神経が傷む前の軽症のものまで含まれれば、手術により改善するケースはさらに増えるかもしれません。

 

  1. 柳原スコア8点以下
  2. ENoG値が10%以下

上記2つを同時に満たす場合は、減荷術の適応

 

顔面神経麻痺の手術適応│柳原8点未満

高度麻痺が進行する症例では顔面神経減荷術を考慮する.

減荷術の適応は柳原スコア8点以下でENoG値が10%以下となる症例である.

減荷術は可及的早期に行うことが望ましいため,高度麻痺症例には発症7~10H目にENoGを行う.

山田, 顔面神経麻痺に対する薬物治療, MB ENTONI (270): 50-55, 2022

ENoGの評価

山田, 顔面神経麻痺に対する薬物治療, MB ENTONI (270): 50-55, 2022

神経が傷む前に手術を行った方が良い

減荷術の適応がスコア 8 点以下(完全麻痺)で麻痺発症 10 日前後の ENoG 値 10%以下という条件では神経変性が進行した状態での手術にならざるを得ない.

顔面神経減荷術の目的が神経の変性予防であり、再生促進ではない観点からすると、神経変性が進行する前の早期減荷術が望まれる.

村上, 顔面神経麻痺 – 過去・現在・未来 -, FACIAL NERVE RESEARCH JAPAN 40: 1-6, 2020

 

帯状疱疹を見逃しやすい理由│治療が遅れる理由

帯状疱疹の治療が遅れる理由は、いくつかあります。

  1. 診断が遅れるパターン
  2. 患者さんが薬を飲まないパターン

帯状疱疹の診断は、①症状、②血液検査、の2パターンがあります。

症状で診断する場合は、顔面の帯状疱疹では、痛みが先行する場合が多いため、『痛み』で診断し、治療を開始します。

  1. 触って痛い
  2. なでるだけでも痛い
  3. 髪を触ると痛い
  4. 髪をクシでとくと痛い
  5. 耳の中まで痛い
  6. 耳を引っ張ると痛い
  7. 後頭部まで痛い
  8. 左右の片側だけの痛み

しかし、帯状疱疹は、『肌にブツブツができる病気』として有名ですので、帯状疱疹が疑わしい状況で、治療を開始する方針となっても、患者さん側が『本当に帯状疱疹なのかな・・』と薬を飲まないこともあります。

帯状疱疹の治療薬は、健常な方が飲んでも有害な副作用は起こりにくいため、帯状疱疹が除外できない状態であれば、抗ウィルス薬を飲む方がメリットは大きいです。

帯状疱疹の薬を飲むデメリットは、副作用で、①精神症状、②腎臓に負担がかかる、です。

しかし、これらは起こることの方が少なく、帯状疱疹を疑った場合は、帯状疱疹の治療を行わないと痛みや麻痺が後遺症として一生残ることもあるため、帯状疱疹の治療薬を飲んだ方が後悔が少ないです。

帯状疱疹の治療薬(バラシクロビル・バルトレックス)の副作用が怖い場合は、副作用を最小限に抑えたアメナリーフ(アメナメビル)があります。

  • バルトレックス 7日間で 2000円
  • アメナリーフ 7日間で 5000円

*自費(10割)の場合は、それぞれ約3倍の料金

アメナリーフの唯一のデメリットは、コストですが、それでも7日間で約5000円なので、一生の後遺症を負うリスクと比較すればメリットの方が大きいです。

 

バラシクロビルは高齢者では、時に副作用の報告あり

バラシクロビルの副作用として腎機能の低下した高齢者などに腎機能障害や精神神経症状を引き起こすことが報告されている.

基礎疾患のない小児では、腎機能障害と精神神経症状を呈したという報告は少ない.

目黒, 水痘罹患時にバラシクロビルによると思われる腎機能障害・精神神経症状を呈した一例, 仙台医療センター医学雑誌 11(2): 54-57, 2021

 

帯状疱疹後にだるさが続く場合がある

帯状疱疹後は、迷走神経障害により、体調不良が継続することがあります。

 

もともと、顔面の帯状疱疹は、そのまま脳にウィルスによる炎症が及び、細かい脳神経を障害することがあります。

帯状疱疹による多発性脳神経障害│医療者向け
ハント症候群を発症すると、下位脳神経( V, VI, X, XI, XII)の障害が起こることがあります。

特に、迷走神経(X)の障害は継続しやすいです。

 

ウィルス感染全般に言われることですが、治癒後も『謎のだるさ』が継続することがあります。

ウィルス感染後の慢性疲労症候群と解釈されたりもします。

改善策としては、ビタミン剤や、ホルモン剤、漢方薬を適宜使用しながら、状態を維持する対症療法とならざるを得ません。

 

子供の顔面神経麻痺の治療│小児顔面神経麻痺

  • 軽症のことが多い
  • 後遺症を残す確率が低く、完治しやすい
  • 乳児はプレドニゾロンなしで治ることも多い
  • 小学生以上はプレドニゾロン治療を1週間行うと治る
  • プレドニゾロン量は、体重 30kg の場合 30mg、体重 20kgの場合 20mg(さらに高用量の方が治りやすい)
  • 帯状疱疹のウィルスが合併することが多く、バルトレックス(=帯状疱疹の治療薬)を飲んだ方が無難

子どもの顔面神経麻痺の治療は、ステロイド(プレドニゾロン)が基本です。

ステロイド(プレドニゾロン)の量は、大人と同じ考え方で OK です。

小学生未満(6歳未満)の顔面神経麻痺は、プレドニゾロンを飲まなくても良くなる場合も多いです。

6歳未満の顔面神経麻痺では、ビタミンB12と、耳の中の血流を良くする薬だけでよくなることが多いですが、

しかし、6歳未満であっても、帯状疱疹を合併している顔面神経麻痺であれば、帯状疱疹の治療を行うとともに、ステロイド治療もためらわずに行うことが大切です。

 

子供の顔面神経麻痺の特徴│重症例ではステロイド

  • 神経障害の程度が軽症にとどまる場合も多い
  • 小児における Bell 麻痺例では90%が完全に自然治癒し、成人に比べて予後が良好
  • 高度麻痺例には小児用量のステロイドおよび抗ウイルス薬の投与が勧められる
  • 学童期のBell 麻痺ではステロイド(プレドニゾロン 1mg/kg/日×1週間漸減)
  • Hunt 症候群ではステロイドと抗ウイルス薬(アシクロビル 80mg/kg/日×1週間)、または、(バラシクロビル 75mg/kg/分3×1週間)
  • 特に乳幼児ではステロイド投与は行わず、無治療もしくはビタミン B12 や ATP 製剤のみ投与し、経過観察する場合も多い
  • Hunt 症候群では不全型を含め、乳幼児であっても積極的にステロイドと抗ウイルス薬の併用投与を行う
  • プレドニゾロン 3-4 mg/kg/日を 2- 3日間投与後 10日間漸減の高用量群では、0.5 – 1mg/kg/日 投与後漸減の低用量群に比べ有意に改善したという報告がある

山田, 小児顔面神経麻痺の疫学・診断・治療, 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 126(4): 430-430, 2023