【安全な妊娠のために】妊婦はインフルエンザ予防接種を推奨

妊娠中は、インフルエンザの予防接種は打った方が良いとされています。

インフルエンザワクチン以外のその他の予防接種については、ケースバイケースですので、かかりつけの産婦人科の先生に聞きましょう。

 

結論:妊婦にはインフルエンザ予防接種を推奨

日本では、妊婦に対するインフルエンザワクチンの接種を推奨しています。

また、授乳中であっても、インフルエンザワクチンの接種は問題ないとされています。

インフルエンザワクチンは、妊娠期のいずれの時期も接種可能である.

治療 95(8): 1477-1480, 2013

 

生ワクチンは、妊婦には原則禁忌

生ワクチンという種類の予防接種は、妊婦には打ってはいけません

生ワクチンは、『ウィルスそのものを打つタイプの予防接種』となるため、感染のリスクがゼロではありません。

一方で、不活化ワクチンは、『ウィルスの欠片(かけら)を打つようなもの』なので、ウィルスとしての病原性はなく、生ワクチンと比べると安全性が高いと言えます。

妊婦に対して

  1. 生ワクチンは原則として禁忌である.
  2. 不活化ワクチンは接種可能である(有益性投与).

 

授乳婦に対して

  1. 生ワクチン接種も不活化ワクチン接種も可能である(有益性投与).

産婦人科診療ガイドライン-産科編2017(日本産婦人科学会)

国際的にも妊婦への生ワクチン接種は禁忌である.

治療 95(8): 1477-1480, 2013

 

生ワクチン・不活化ワクチンの種類

生ワクチン

  • BCG
  • 麻疹・風疹混合 (MR)
  • 水痘
  • 流行性耳下腺炎 (おたふくかぜ)
  • ロタウイルス:1価,5価
  • 黄熱
  • 帯状疱疹(水痘ワクチンを使用)


不活化ワクチン・トキソイド

  • インフルエンザ
  • インフルエンザ菌b型 (Hib)
  • 百日咳・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオ混合 (DPT-IPV)
  • 百日咳・ジフテリア・破傷風混合 (DPT)
  • 成人用ジフテリアトキソイド
  • ジフテリア・破傷風混合トキソイド (DT)
  • ポリオ (IPV)
  • 日本脳炎
  • 肺炎球菌 (13価結合型・23価莢膜ポリサッカライド)
  • A型肝炎
  • B型肝炎
  • ヒトパピローマウイルス (HPV):2価,4価
  • 破傷風トキソイド
  • 狂犬病
  • 髄膜炎菌:4価
  • 帯状疱疹

国立感染研究所HPより抜粋・改変

前述の通り、原則、妊婦には生ワクチンは打てません

しかし、黄熱ワクチンのみは打って良いとされています。

米国疾病予防局(CDC)は、黄熱病流行地域への旅行が避けられず、感染の危険性がある場合には接種すべきとしている.

産婦人科診療ガイドライン-産科編2017(日本産婦人科学会)

生ワクチンのなかで妊婦に接種可能とされているのは黄熱ワクチンである.

治療 95(8): 1477-1480, 2013

 

授乳中でもインフルエンザ予防接種は打って良い

妊婦も授乳婦もインフルエンザワクチンの接種は問題ありません

さらに授乳中であれば、生ワクチンも問題ないとされています

つまり、生ワクチンを打っても母乳を赤ちゃんに与えても良いということです。

かかりつけの産婦人科の先生にも一言お伝えしておくと、なお安心です。

授乳婦に生ワクチンまたは不活化ワクチンを与えても、母乳の安全性に影響を与えない.

母乳はワクチン接種に悪影響を与えず、禁忌にはならない.

ただし風疹ワクチンは母乳に分泌されることが確認されており、児に対して無症候性感染を起こす.

しかし、臨床的に問題となることはなく、むしろ風疹抗体価(HI)16倍以下の妊婦では産褥期のワクチン投与が勧められる.

産婦人科診療ガイドライン-産科編2017(日本産婦人科学会)

 

妊婦・授乳中は、インフルエンザ治療薬(予防目的・治療目的)を飲んで良い

産婦人科の専門の学会では、基本的には、『インフルエンザ予防接種や、治療薬は、妊婦や授乳中のママには、メリットが大きい』ことを説明して、『希望する場合には処方する』という立ち位置です。

つまり、妊婦本人や、授乳中の本人が、予防接種やお薬の説明を受けて、理解・納得した上で希望した場合は、予防接種や予防内服・治療を受けられる、という方針になっています。

ただ薬の添付文書では『メリット・デメリットを考慮した上で、薬の継続または中止を検討』という旨が記載してあるため、インフルエンザ予防接種や治療を希望される場合は、一度、かかりつけの産婦人科の先生と相談してみてください。

下記を状況に合わせて説明し、希望する妊婦・褥婦にはワクチン接種あるいは抗インフルエンザ薬投与を行う.

  1. 妊婦へのインフルエンザワクチン接種はインフルエンザの重症化予防に最も有効であり、母体および胎児への危険性は妊娠全期間を通じてきわめて低い.
  2. インフルエンザに感染した妊婦・分娩後2週間以内の褥婦への抗インフルエンザウィルス薬投与は重症化を予防する.
  3. インフルエンザ患者と濃厚接触した妊婦・分娩後2週間以内の褥婦への抗インフルエンザウィルス薬予防投与は有益性がある.

産婦人科診療ガイドライン-産科編2017(日本産婦人科学会)

オセルタミビル(タミフル®)は、治療の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討すること.

タミフル® 添付文書

授乳の再開については、明確なデータはありませんが、服薬終了2日(48時間)後からの授乳をご案内しています.

タミフル® 適正使用のお願い(中外製薬)より抜粋

 

妊婦がインフルエンザを発病すると胎児へ影響が出る

妊婦がインフルエンザを発病すると、高熱のために奇形を持った赤ちゃんが生まれることがあります

これは、『インフルエンザを発病すること』が原因なのではなく、『高熱が出ること』が原因と考えられています。

この問題に対しては、適切な解熱剤を使って高熱を防いだり、インフルエンザ予防接種をすることでインフルエンザの発症そのものを防ぐことが大切と言われています。

妊婦が妊娠初期にインフルエンザに罹患した場合、神経管閉鎖障害や心奇形などの出生児の先天奇形が増える.

Luteijin JM: Hum Reprod 2-14; 29: 809-823

妊婦がインフルエンザに罹患した時に生まれる先天奇形は、インフルエンザウィルスの直接の催奇形性ではなく、妊婦の高熱によるものであり、適切な治療(アセトアミノフェン等の解熱剤の投与など)により、奇形のリスクは上昇しない.

Acs N: Birth Defects Res A Clin Mol Teratol 2005; 73: 989-996

 

妊婦が感染すると妊婦自身も重症化しやすい

妊婦がインフルエンザに感染すると胎児とともに重症化しやすい事が知られています。

妊娠初期よりも、お腹の中の赤ちゃんが大きく育った妊娠後期の方が、重症化しやすいです。

インフルエンザが大流行した1900年代前半に、インフルエンザに感染した妊婦の約3割が命を落としました

ですので、妊婦の方はインフルエンザ予防接種をきちんと受けた方がメリットが大きいと言えます。

妊婦がインフルエンザを発症した時の循環障害や肺炎などのリスクは、妊娠14-20週で1.4倍、妊娠27-31週で2.6倍、妊娠37-42週で4.7倍となり、特に妊娠末期での発症は高リスクとなる.

Neuzil KM, Am J Epidemimol, 148: 1094-1102, 1998

1918年のスペイン風邪(インフルエンザA(H1N1))の感染妊婦における、米国での母体死亡率は27%、胎児死亡率は35-60%であった.

斎藤, 月刊薬事 60(13): 2423-2428, 2018