めまいの治療は30年以上、変わっておらず、同じ治療が継続されています。
2017年に、『PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)』という新しいめまいの病気が見つかりました(定義されました)。
この病気には治療があるため、今まで治らなかっためまいの方が治る可能性があります。
結論:長引くめまいはPPPDの可能性があり、治療を検討
PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)は、長期間にわたって『浮いている感じ』や『足場が不安定な感じ』を訴える、新しいめまいの病気です。
『治らないめまい』で長年悩まれている方は『PPPD』という新しいめまいかもしれません。
PPPDは、脳のMRIなどでは異常を認めず、今までは原因不明の謎のめまい症として診療を継続されている方が多いです。
この病気は、薬の治療、リハビリ、認知行動療法、が有効とされています。
薬は『SSRI(エスエスアールアイ)』という抗うつ薬が効くと言われています。
『治らないめまい』の治療は、抗うつ薬・リハビリ・認知行動療法
持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の治療として、SSRIなどの抗うつ薬、前庭リハビリテーション、認知行動療法の有用性が報告されている.
Equilibrium Res Vol.79(2)62-70, 2020
PPPDの診断基準と特徴
PPPDの診断基準は、2017年に国際神経耳鼻学会(Banany Society)で作られました。
PPPDの特徴は、①長期間継続するめまい、②回転性めまいというより、不安定感・浮遊感が主症状、③朝より夕方に悪くなる、④じっとしているよりも、立ったり歩いたりすると症状が悪くなる、ということが挙げられます。
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PPPDの診断基準
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持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の診断基準
PPPDは以下のA~Eで定義される慢性の前庭症状を呈する疾患である.
診断には5つの基準全てを満たすことが必要である.
A. 浮遊感,不安定感非回転性めまいのうち1つ以上が,3カ月以上にわたってほとんど毎日存在する.
1. 症状は長い時間(時間単位)持続するが,症状の強さに増悪・軽減がみられることがある.
2. 症状は1日中持続的に存在するとは限らない.B. 持続性の症状を引き起こす特異的な誘因はないが,以下の3つの因子で増悪する.
1. 立位姿勢
2. 特定の方向や頭位に限らない、能動的あるいは受動的な動き
3. 動いているもの、あるいは複雑な視覚パターンを見たときC. この疾患は,めまい,浮遊感不安定感,あるいは急性・発作性・慢性の前庭疾患、他の神経学的または内科的疾患、心理的ストレスによる平衡障害が先行して発症する.
1.急性または発作性の病態が先行する場合は、その先行病態が消失するにつれて、症状は基準Aのパターンに定着する.
しかし、症状は、初めは間欠的に生じ、持続性の経過へと固定していくことがある.
2.慢性の病態が先行する場合は、症状は緩徐に進行し、悪化することがある.D. 症状は、顕著な苫痛あるいは機能障害を引き起こしている.
E. 症状は、他の疾患や障害ではうまく説明できない.
Staab JP: Diagnostic criteria for PPPD. J Vestib Res 27: 191-208, 2017
めまいが治りにくい人の特徴│PPPDになりやすい人
- 40代・50代・60代の女性
- ストレスが強い人
- 不安が強い人
- 神経質な人
- パニックになりやすい人
- 交通事故にあった人
『めまいが治りにくい人』には、特徴があります。
メンタルとの関連もあります。
『神経質な人の長引くめまい』はPPPDの可能性あり
海外から複数の医学論文が出ていますが、PPPDは、神経質な人が多いとされています。
あなたの周りの『長引くめまい』の方が、ちょっと神経質だったり、いわゆる「気にしすぎ」タイプの方だった場合は、PPPDの可能性があります。
『治らないめまい』は、『神経質な40代、50代、60代の女性』に多い
PPPDは、40~60歳代の女性に多く、不安症あるいは神経症の傾向がある.
Bittar RS. Braz J Otorhinolaryngol; 81:276-282, 2015
PPPDになる『きっかけ』があることが多い│交通事故・パニック障害・ストレス
PPPDは、はじめにきっかけとなる病気があって、その後からPPPDの症状が継続していくことが多いです。
きっかけとなる病気とは、脳震盪(のうしんとう)、交通事故のむち打ち、めまいを合併する片頭痛、パニック障害、などです。
PPPDになりやすい人は、不安・パニック・交通事故
PPPDでは下記のような先行疾患を認める場合が多い.
- 中枢性または末梢性の前庭疾患(PPPDの25-30%)
- 前庭性片頭痛の発作(15-20%)
- パニック発作(15%)
- 全般性不安(15%)
- 脳振とう・むち打ち(10-15%)
- 自律神経障害(7%)
Staab JP: Diagnostic criteria for PPPD. J Vestib Res 27: 191-208, 2017
『ぐるぐるめまい』だけならPPPDではないことが多い
PPPDは、『浮いている感じ』、『不安定な感じ』が主な症状です。
一般的なめまい症に多い『ぐるぐるめまい』だけの症状であれば、PPPDではないことが多いです。
PPPDは、『ぐるぐるめまい』は起こらない
PPPD単独では、回転性めまいは呈さないことがポイントである.
Equilibrium Res Vol.79(2)62-70, 2020
PPPDの治療
PPPDの治療は、前述の通り、飲み薬、リハビリ、認知行動療法、の3つが軸です。
- 飲み薬
- リハビリ
- 認知行動療法
① 飲み薬
PPPDの薬の治療は、主にSSRIという種類の抗うつ薬(うつ病の薬)が使われます。
PPPDの治療目的で使われる場合は、うつ病症状がなくても、めまい症状や浮遊感に効く事が多いと言われています。
医学論文の報告で多いSSRIは、セルトラリン(ジェイゾロフト®)という、うつ病の薬です。
PPPDの半分以上の患者さんに有効と言われています。
『治らないめまい』PPPDの薬は、抗うつ薬│SSRI
PPPDの約半分から3分の2は、SSRIが有効であった.
Popkirov S: Curr Treat Options Neurol 20: 50, 2018
PPPDに対するSSRI/SNRIに関しては、抑うつや不安症の有無にかかわらず有効であり、精神作用以外の奏功機序が考えられている.
投与量はうつに用いられる量の半量程度で有効とする報告が多い.
日本耳鼻咽喉科学会会報 123(2): 170-172, 2020
② 前庭リハビリテーション
③ 認知行動療法
PPPD治療には、医療者側も心構えが必要
PPPDの治療には、医療者側も『患者さんの訴えを信じること』から必要です。
患者さんは、複数の医療機関を受診し、『自分の訴えが信じてもらえなかった失望と不信感』を抱えていることが多いです。
信頼関係がなければ、治療がスタートしないこともPPPD治療の特徴です。
患者側としても、きちんと信頼できる医師を見つけましょう。
医療者側も、患者の症状(めまい・浮動感など)と機能障害を嘘ではないことを認識することが重要です.
Guttorm E: Persistent postural-perceptual dizziness, Tidsskr Nor Legeforen 2019
PPPDを治療しないとどうなる?
PPPDは、無治療では治りにくい事が知られています。
無治療のままだとメンタルを崩し、症状も良くなりません。
早めに受診した方がメリットが大きいです。
PPPD は自然軽快することは少なく、無治療の場合、3/4は不安症やうつを続発し長期に症状が持続する.
日本耳鼻咽喉科学会会報 123(2): 170-172, 2020
めまいの原因で1番多いものは『BPPV』
『BPPV』は、『良性発作性頭位めまい症(りょうせい・ほっさせい・とうい・めまいしょう)』の略です。
頭位めまい症は、『頭の位置を変えると、めまいが起こる病気』です。
すべてのめまいの原因の中で、最も多いものとされています。
BPPVでも長引くめまいは起こる│良性発作性頭位めまい症
めまいが治らないからと言って、全員がPPPDとは限りません。
『一般的なめまい』の代表の『頭位めまい症』でも、長引くめまいは起こります。
しかし、頭囲めまい症の治療があまり効かない場合は、PPPDとして一度診療を受けてみましょう。
BPPV では頭位療法後に眼振が消失しても浮動感がしばらく持続する症例が散見される.
それらは頭位療法にて戻した耳石が卵形嚢斑で安定しないため、または半規管に少量の耳石が残っているなどが考えられている.
日本耳鼻咽喉科学会会報 123(4): 1143-1143, 2020