『首筋から後頭部が痛い』『治らない肩こり』は、くも膜下出血の前兆かも

『首筋から後頭部が痛い』で、1番怖い病気は『椎骨動脈解離(ついこつ・どうみゃく・かいり)』です。

この病気は、『くも膜下出血になる直前』の状態です。

くも膜下出血は、頭の病気ですが、くも膜下出血を発病する少し前に『肩や首筋の後ろが痛くなる』ことがあります。

首筋の痛み・肩こりが治らない場合は、血管が裂けて『くも膜下出血』になりかけている事があります

肩こりや頭痛の診療をしていますと、『くも膜下出血』の前兆の『椎骨動脈解離』に遭遇することがとても多いように思いますが、一般にはあまり知られていません。

この『椎骨動脈解離』を発症すると、突然、首が痛くなることもあれば、じんわり痛くなることもあります。

肩こりと自覚して受診しても、実は『椎骨動脈解離(ついこつ・どうみゃく・かいり)』だったことも少なくはありません。

発症して間もなければ、緊急入院となる病気です。

この病気の怖いところは、診察だけではわからないということです。

逆に、MRIや造影CTなどの画像検査を行うことで、病気を見つけることができます。

関連記事

首が回らない、動かない時に、見逃しやすい病気は、『Crowned dens syndrome(クラウンド・デンス・シンドローム)』です。 日本語では、『頸椎偽痛風(けいつい・ぎつうふう)』または『環軸関節偽痛風発作(かんじくかんせつ・[…]

 

結論:突然の『首筋から後頭部の痛み』は危ない│くも膜下出血の前兆

  • 血管の重大なトラブルの事があります
  • 1番見落としてはいけないものは、『椎骨動脈解離』
  • 『椎骨動脈解離』は、血管が裂ける病気で、くも膜下出血の直前の状態です

『首筋から後頭部が痛い』時に、肩こりが原因のことが多いですが、肩こり治療の前に、怖い病気だけは除外が必要です。

首の後ろが突然痛くなった』は、危ない病気の可能性があります。

 

MRIで診断する『椎骨動脈解離』は、『ただの肩こり』『ストレートネック』と間違えやすい

『血管が裂けているかどうか』、『解離かどうか』は、『血管を見る検査』でなければ診断がつきません。

血管を見る検査は、『MRI』か『造影剤を使ったCT』です。

つまり、普通のCTでは椎骨動脈解離の診断がつきません

血管が裂けている部分は、血管の撮影をすると、血管が膨らんで見えるのが特徴です。

また、MRIは血管の壁と、血管の中身を撮影することができるため、血管が裂けたことを診断しやすいメリットがあります。

『椎骨動脈解離』は、『肩こり頭痛』『ストレートネック』として見逃されることが多い

頚部の動脈解離は、症状が軽度のことも多く、見逃される可能性がある.

Stéphanie D: Lancet Neurol, 2009 Jul;8(7):668-78

 

椎骨動脈解離は『じわじわ痛くなる』こともある

突然痛くなれば「怖い病気かもしれない」と思いますが、この病気は、じわじわ痛くなることもあります。

 

『肩こりだと思っていたら椎骨動脈解離だった』は多い

『治らない肩こり』は、『首の後ろの血管が裂けている』かもしれません

ただの肩こり』だと思って来ると、『実は”椎骨動脈解離”だった!』ということはしばしばあります。

椎骨動脈解離は、数日で命を落とすこともある重い病気で、MRIで診断がつきます。

検査の結果、本当にただの肩こりだったら、肩こり注射を実施していきます。

 

“椎骨動脈解離” が悪化すると “くも膜下出血”になる

『肩こり』や『首筋の後ろの痛み』は、くも膜下出血の前兆かもしれません

椎骨動脈解離の怖さは、血管が裂けること自体ではありません。

血管が裂け切ってしまうと、血管の外に血が漏れ、頭の中で大出血します。

つまり、椎骨動脈解離が悪化すると、そのまま『くも膜下出血』になってしまうのです。

くも膜下出血の致死率は、だいたい30%程度ととても高いです。

過去の論文を見ても、世界中で大勢の方が、この病気で亡くなっています。

椎骨動脈解離はそれほどとても怖い病気です。

『肩こり』『首筋の後ろの痛み』を伴う頭痛は、くも膜下出血・脳梗塞の前兆かも

肩こり、首筋から後頭部が痛くなったら検査の必要あり

椎骨動脈解離の可能性を念頭に起き、検査を進めることが必要と思われる.

中村, 脳卒中の外科 49(1): 42-47, 2021

 

 

椎骨動脈解離の怖さは、”見た目ではわからない” こと

椎骨動脈解離があるかないかを、見た目だけで判断することはどのお医者さんでもできません。

診察しただけでは、『普通の肩こり・首のこり』と『血管の病気』は見分けがつきません。

MRIを撮影して、

え、この人、解離だったの!?

というパターンも非常に多いです。こればかりは、画像を撮影しないとわかりません。

 

後日『血管が裂けています』と診断されることもある

『首の痛み』で来院され、後日、『椎骨動脈解離』と診断された方もいます。

『首の痛み』と『めまい』で、後日『椎骨動脈解離』と診断されることもある

首の痛みとめまいで来院され、椎骨動脈解離の診断に至った症例

  • 本症例は、救急外来で夜勤帯が早朝に見て日勤帯に申し送られた
  • 申し送りでは「緊張性頭痛と良性発作性頭位めまい症」の疑いとされた
  • その後、さらなる精査で椎骨動脈解離と診断された
  • 夜勤帯では後頸部痛があることは認識はしていたが椎骨動脈解離は想起できなかった

O-106 第18回 日本病院総合診療医学会学術総会

このように、後からきちんとした検査(MRI)を行って診断をつけられることが多いです。

それ程、見た目だけではわからないということです。

でも見た目だけでこの病気かどうかを推測する方法も一応あります

それは「何をやっている時に痛くなったか?」に注目することです。

 

「急に首を動かした時に痛くなった」は怖い

急に首を動かした時から痛みが継続する場合は、「椎骨動脈解離を起こしたかも?」と疑って診察します。

椎骨動脈解離の原因となる発症前の動作としては、過去に多くの研究報告があります。

椎骨動脈解離の原因

椎骨動脈解離の原因として、

  • くしゃみ
  • ヨガ
  • カイロプラクティック(整体)

などがあります

Equilibriurn Res Vol 79(1)20-26, 2020

今までも、『平泳ぎで頭を上げた時に痛くなった』や、『重たい荷物を肩に乗せた瞬間からずっと痛い』などいろいろな方が見えました。

もちろん、ただの筋肉痛や頚椎症が痛みの原因であることも多いです。

しかし、椎骨動脈解離が見逃された時のリスクはあまりにも大きすぎるのです。

 

首のマッサージで死亡した例

首を勢いよく回すと、椎骨動脈解離が起こり、ひどいとくも膜下出血になり、命を落とすことがあります。

 

『首を回す体操』で、首の血管が裂けた人の話│怖い話

首を勢いよく回すと、首の血管が避けることがあります

首をいきおいよく回すと、『首から脳に向かう血管』が切れてしまうことがあります。

首の体操で血管が切れることは珍しいことではなく、実は日常的によくあることです。

朝の体操で、首を回した時に、首の血管が裂けた人の話

起床時に普段通りに頚部回旋運動を行った直後から後頚部痛を自覚した.

その後、ふらつき、呂律困難右半身の脱力が順に出現したため救急病院に搬送された.

両側椎骨動脈解離によりBow hunter症候群を発症したものと判断した.

渡部, 脳卒中 43(1): 42-46, 2021

 

『くしゃみ』で、首の血管が裂けた人の話

くしゃみの後に、首と脳の血管が裂けることがあります

くしゃみも血管が裂けるきっかけになります。

『くしゃみの後の耳鳴り』で、実は血管が裂けていた人の話

  • くしゃみをした直後に耳鳴り、吐き気、めまいを自覚
  • 救急外来、耳鼻科を受診
  • 診断は、『椎骨動脈解離による脳梗塞』であった.

関, めまい平衡医学 79(1): 20-26, 2020

 

『突発性難聴』を疑われて、実は『椎骨動脈解離』だった人の話

『めまい』の原因が、『椎骨動脈解離』のこともあります

『回転性めまい』と言えば、三半規管の異常のことが多いです。

しかし、椎骨動脈解離が原因で、回転性めまいを起こすこともあります。

突発性難聴が疑われた椎骨動脈解離の一例

  • 1週間前から、回転性めまいが出現
  • 耳鼻科で眼振を認め、『めまいを伴う突発性難聴』の診断
  • 入院後のMRIで、『椎骨動脈解離』と診断された

亀井, 日本耳鼻咽喉科学会会報 123(4): 1058-1058, 2020

 

 

椎骨動脈解離の医療機関の対応

  • 入院が望ましい(主治医の裁量による)
  • 治療は『安静』と『血圧管理』
  • 治療の目的は『くも膜下出血』の予防
  • 突然死することもある

入院か外来のどちらで追跡するかは、基本的に主治医の先生の裁量によります。

だいたいのルールは決まっていて、『2週間入院』のパターンが多いです。

入院中には、カテーテル検査を行う場合もありますし、ただ安静に寝るだけの入院のパターンもあります。

入院中の方針もケースバイケースです。

2週間程度経過すると、自然と安定化してきて退院となります。

その後、3ヶ月かけて頭痛もだんだんと良くなってきます。

椎骨動脈解離は、自然と治ることが多い│安静だけで治癒する確率が高い

椎骨動脈解離は、入院して安静にしていると、自然に治ることが多いです

椎骨動脈解離は、手術をすることはほとんどありません

入院して、安静にしていると、自然と血管が修復され、元通りになることが多いです。

しかし、病気の勢いが強いときや、血圧が高いときは、くも膜下出血や脳梗塞を起こす確率が上がります

椎骨動脈解離の治療は、『入院して安静にする』│手術することは少ない

解離性椎骨動脈瘤(椎骨動脈解離)は、発症から数ヶ月以内に病変部は急激な変化を示し、自然改善例が多い.

八木, 脳卒中の外科 33: 14-19, 2005

 

椎骨動脈解離はいつ治る?│3ヶ月たてば安心

椎骨動脈解離は、3ヶ月間たてば大丈夫です

椎骨動脈解離(ついこつ・どうみゃく・かいり)は、何事もなく3ヶ月たてば、くも膜下出血・脳梗塞の起こる確率がグッと下がります。

何か起こるとすれば、はじめの数日間です。

動いたり、血圧が上がると、くも膜下出血になり、突然死の確率が上がります。

椎骨動脈解離を発病してしまったら、直ちに入院して安静にする方が良いです。

椎骨動脈解離は、3ヶ月たてば大丈夫

椎骨動脈解離は、3ヶ月を過ぎると画像上の形態変化が少なく、安定する.

Mizutani , Natural course of intracranial arterial dissections. J Neurosurg 114: 1037-1044, 2011

 

 

『ただの肩こり頭痛』『ストレートネック』と思って受診したら、『脳の緊急手術』になることがある

椎骨動脈解離で、出血まで至った人は、24時間以内に緊急手術します

『肩こり頭痛』の原因が、実は『椎骨動脈解離』だった時、すでに出血している人は、緊急手術になります

一度出血した椎骨動脈解離の人は、24時間以内にもう1回出血し、命を落とす確率が高いからです。

『ただの肩こり頭痛』と思っていたら、いきなり脳の緊急手術になることがある、ということです。

椎骨動脈解離で出血していたら、緊急手術が必要│24時間以内に命を落とす確率が高い

椎骨動脈解離性動脈瘤が破裂した場合、特に発症から24時間以内に再出血を生じる可能性が高い.

再出血予防のため早期の外科的治療が望まれる.

石川, 脳卒中 42(1): 19-23, 2020

 

一度血管が裂けると、頭痛が長引く│頭痛が数ヶ月続く

血管が裂けた人は、頭痛が数ヶ月の間、長引きます

血管が裂けると、血管が修復されるまでの数カ月間の間、頭痛が継続します。

頭痛が続く期間は、3ヶ月以内に治まることが多いですが、半年や1年かかる人もいます。

『血管解離した後の頭痛』は、治るまでに数ヶ月かかる│血管が修復されると痛みが治る

組織修復が始まる時期に頭痛が改善する.

中村, 脳卒中の外科 49(1): 42-47, 2021

 

まとめ:『肩こり頭痛』『首筋が痛い』は、MRIを撮影してください

『肩こり頭痛』『首筋が痛い』が治らないときは、脳と首のMRIを撮影してください

脳や首の血管が裂ける『動脈解離』は、突然死することがあります。

首を動かしたり、肩がこったりすることが多い働き盛りの方は、一度でも検査しておくと安心して長くお勤めできると思います。

 

合わせて読みたい

頭痛の診療では、痛みをやわらげる治療を提案することが主な目的ではありますが、重大な疾患を見落としてないかの診断も重要です。 画像検査で怖い病気を除外すれば、『頭痛症』として、細かな分類をして治療に入っていきます。 最も多いのは片[…]