結核の診断方法は、①痰(たん)を顕微鏡で結核菌を直接確認する、②培養、③血液検査(インターフェロンガンマ検査)、の3つがあります。
- 痰をそのまま顕微鏡で見る(痰塗抹:たん・とまつ)
- 痰に含まれる菌を培養して顕微鏡で見る(痰培養:たん・ばいよう)
- 血液検査(インターフェロンガンマ検査)
それぞれの診断方法で、治療をしたり、様子見にしたりが決まります。
もちろん結核で体調が悪ければ、そもそも治療が必要ですが、無症状で血液検査だけ引っかかった人は、治療せず様子見になることもあります。
1番、結核菌が感染力を持つ場合は、痰をガラス(プレパラート)に塗って顕微鏡で観察する『痰塗抹(たん・とまつ)』検査で結核菌が検出される場合です。
この場合は隔離した後に、直ちに治療が必要です。
現在では、インターフェロンガンマ検査(クオンティフェロン・T-SPOT)により、潜在的な結核患者さんも診断できるようになりました。
検査が充実してくると、結果の解釈と、治療方針が大切になります。
日本は結核患者数が多い国です。
日本の新規の結核患者数は年間1万人であり、先進国では多い方です。
人口10万人あたり10人です。これは米国の2-3倍の割合で多いです。
結核によく似た非定型抗酸菌症も肺がんを発症するリスクが高いです。
結核の診断
結核菌塗抹陽性: 感染の危険が非常に高く、治療必要
結核菌塗抹陰性だが培養陽性: 感染の危険は低いが、治療必要
クオンティフェロン陽性: 潜在性結核感染症の診断
培養陰性であっても、肺のCT画像で結核が悪化していたら、1年以内には培養で結核菌が検出されます。
肺のCTは結核診断には有効ですが、肺のCTだけでは結核の治療を開始しません。
クオンティフェロンを含めたインターフェロンガンマ検査は、補助診断としては有効です。
しかし、高齢者では反応が弱くなり、本当は結核感染歴があっても、インターフェロンガンマ検査が陰性となることもあります。
現在では、結核菌の培養でも陰性のときは、治療を開始はしないとする立場の先生もいます。
菌を確認せずに治療すると、薬が効きにくい結核菌に変わってしまい、治療が難しくなり、結核がむしろ悪化するからです。
ケースバイケースなので、きちんと呼吸器科の主治医の先生とお話して方針を聞きましょう。
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結核の診断には3日連続で痰検査│99%診断できるテクニック
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3連痰で結核の9割は診断できる
本当に結核の患者さんであれば、3日連続で痰の検査を行えば、99%の結核は逃さず診断できます。
しかし、1回の痰では、培養しても3割くらいを逃してしまい、正しく診断できません。
結核の診断には3連痰
結核を疑った場合,3日間連続検査を行えば菌陽性となる症例の90%以上を検出できる
痰の採取回数 – 塗抹の陽性率 – 培養の陽性率:
- 1回 ー 64% ー 70%
- 3回 ー 91% ー 99%
斎藤, 直接並びに集菌塗抹喀痰からの抗酸菌検出成績の比較.第26回結核・非定型抗酸菌症治療研究会資料,2001
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インターフェロンガンマ検査による診断│医療者向け内容
- インターフェロンガンマ検査(=IGRA)には、2つの検査があります。
- QFT = クオンティフェロン
- T-POT
いずれも結果が出るまで、2-4日かかります。
1週間以内には結果が出ます。
* IGRA = interferon-gamma release assay(インターフェロンガンマ遊離試験)
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最新のクオンティフェロン検査│インターフェロンγ
- クオンティフェロンは、下記の第3世代か第4世代の検査キットが使用されます。
- 第3世代 → QFT-G(ゴールド)
- 第4世代 → QFT-Plus(プラス)
クオンティフェロン(QFT)は、現在、QFT-Plusが最新です。
第3世代の QFT-G と比べて、特異度を保ったまま、感度が向上しています。
参考│
・結核接触者健診におけるQuantiFERON-TBゴールドプラス陽性に関連する因子, 岡田, 結核 97(1): 1-5, 2022
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インターフェロンγ検査は、高齢者では曖昧
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高齢者では、インターフェロンガンマ検査の反応が落ちて、本当は結核にかかっていても、陰性と判断されることがあります。
加藤, 日本におけるインターフェロンγ遊離試験の年代別陽性率に関する検討. 結核 92:365-370, 2017
潜在性結核の診断方法
日本での潜在性結核の診断は、インターフェロンガンマ検査、特にクオンティフェロン(=QFT)で行います。
特に、結核に感染しやすい職場(結核病棟がある医療機関など)に入職する時は、インターフェロンガンマ検査を行い、基準値を確認しておくことが望ましいです。
来日前の外国人労働者における潜在性結核のスクリーニング検査は、ツベルクリン反応で行うことが多いです。
インターフェロンγ検査が陽性であれば、『潜在性結核感染症』として、治療が推奨されます。
健常な人で結核になったことがあれば、治療後の状態を見ていることもあり、今回は治療しないこともあります。
参考│
・外国人技能実習生受け入れ監理団体における結核と潜在性結核感染症に関する意識および健診体制に関する調査: 河津, 結核 97(5): 249-255, 2022
肺以外の結核の診断
- 粟粒結核(ぞくりゅう・けっかく) → 血液培養、尿の抗酸菌培養、尿の結核菌PCR検査
- 結核性胸膜炎 → 胸水LDH/ADA (ADA高値)
- 尿路の結核 → 尿の抗酸菌培養、尿の結核菌PCR検査
肺以外にも結核は発症します。
結核菌が血流に乗った場合は、リンパ節、骨(骨髄)、尿路、肝臓、脳、眼球、などに転移します。
肺以外に結核を発症した場合は、診断が難しくなります。
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結核性胸膜炎は胸水から結核菌が検出できない│診断的治療を行う
- 結核性胸膜炎は、胸水から結核菌が検出できないため、胸水のLDH/ADAで結核診断を行ったり、結核菌が検出できてなくても治療を行い、効果を判定する『診断的治療』を行ったりします。
結核性胸膜炎では胸水からの結核菌検出率が低い
河地: 結核性胸膜炎の臨床的研究, 結核, 1985 ; 60 : 567‒571
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CTで結核の活動性があれば、1年以内に培養陽性になる
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CTの結核の初見は大切
画像上活動性と判断されたが喀痰検査で培養陰性であった者を追跡したところ、1 年以内に42%が培養陽性となった
Cheung-Yam LYC: Smear-negative pulmonary tuberculosis Controlled trial of 3 month and 2 month regimens. Bull IUAT. 1979 ; 54 : 48-60
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BCGによる膀胱がん治療│週1で2ヶ月投与
- BCG(結核のハンコ注射)は、初期の膀胱がんの治療に使われています。
膀胱がん初期(CIS)の治療としては、週1回を6-8週間繰り返す投与スケジュールが標準的です。
BCGにより膀胱から結核に感染したかどうかを調べる場合は、①尿の抗酸菌培養、②尿の結核菌PCR検査、を行います。
膀胱癌に対するBCG注入療法施行中に薬剤性肝障害を生じた1例, 橋村, 多根総合病院医学雑誌 11(1): 67-70, 2022
肺非結核性抗酸菌症の診断
『非結核性抗酸菌症(ひ・けっかくせい・こうさんきんしょう)(=NTM)』は、結核に似た病気です。
肺に発病するため、『肺NTM』とも言います。
結核は命を落とすことが多いですが、肺非結核性抗酸菌症は無症状のことが多く、命を落とすことはありません。
2005年頃までは、結核の方が肺NTMよりも多かったです。
しかし、2010年頃より肺NTMは増加し始め、現在では結核よりも多い病気となっています。
肺非結核性抗酸菌症(肺NTM)の診断基準
- 肺CTの異常
- 痰の培養検査で2回陽性
肺のCTが普及し、レントゲンではわからない肺非結核性抗酸菌症(肺NTM)が、症状が出る前に ①CT画像、②痰の検査 の2つで診断できるようになりました。
つまり、肺非結核性抗酸菌症(肺NTM)は、無症状でも診断可能です。
以前は、肺非結核性抗酸菌症と診断するためには、何かしらの症状(咳・倦怠感など)がなければ診断できませんでした。
肺非結核性抗酸菌症(肺NTM)は、無症状であれば、経過観察です。治療は行いません。
参考│
肺非結核性抗酸菌症の原因菌
- マック(=MAC)
- マイコバクテリウム・カンサシイ
肺非結核性抗酸菌症(=肺NTM)の原因菌は、大きく2つです。
1つ目の原因菌が、『マック=MAC』です。MACに感染した肺NTMを『マック症(=MAC症)』と言います。
MACの正式名称は、『マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス』です。
もう1つの原因菌が、マイコバクテリウム・カンサシイ(=M. kansasii)です。
肺NTMの原因菌で最も多いものが、MAC症です。
肺NTMのうちの8-9割は肺マック症なので、お医者さんからは『肺NTM』という病名でなく、『肺MAC症』と説明を受けることもあります。
マックもカンサシイも、いずれも感染すると肺がんになりやすくなることが知られています。
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肺NTMで1番多い菌はMAC
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肺NTMの89%はMAC症である
Namkoong H,Epidemiology of Pulmonary Nontuberculous Mycobacterial Disease, Japan. Emerg Infect Dis. 2016 ; 22 : 1116-7
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MAC症は2つの菌を合わせた呼び方
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M. avium(マイコバクテリウム・アビウム)と、M. intracellulare(マイコバクテリウム・イントラセルラレ)を総称して、MAC症と言います。
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肺NTMになると肺がんになりやすい
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肺NTMと診断されると2-3%の確率で肺がんも見つかる
肺NTM症患者における肺癌合併率は 2~3%である
がんと結核・非結核性抗酸菌症, 田村, 結核 97(1): 13-20, 2022
痰の培養で陽性なら無症状でも肺非結核性抗酸菌症と診断してOK
痰の培養で肺非結核性抗酸菌症(肺NTM)が検出されれば、呼吸器症状(せき・たん)などがなくても、肺非結核性抗酸菌症と診断できます。
以前は、『症状がなければ肺非結核性抗酸菌症と診断してはいけない』というルールがありましたが、症状が出る前の早期の状態で診断するために、診断基準から『症状』の項目がなくなりました。
無症状でも肺NTMと診断できるようになった│ガイドライン改定により
画像診断や核酸同定法などの進歩で,臨床症状出現前に診断可能になったという現状に即し,診断基準から「臨床症状あり」を外した
CT画像だけでは非結核性抗酸菌症を診断してはいけない
CT画像で肺非結核性抗酸菌症(肺NTM)を強く疑っていても、痰で菌が検出されない限りは、『非結核性抗酸菌症ではないかもしれない』からです。
つまり、肺非結核性抗酸菌症の診断には、痰の培養が必須です。
肺NTMはCTだけでは診断できない
感染症診断の原則から,典型例であっても画像所見のみでの診断は採用しない
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CT画像で肺NTMと肺結核のどちらか予想する方法
- CT画像だけは確定診断はできませんが、画像の特徴から病気を予想することができます。
肺の上の方に病気があれば、肺結核を疑います。
肺の真ん中(右肺の中葉・左肺の舌区)に病気があれば、肺NTMを疑います。
真ん中は、気管支が鋭角で痰やバイ菌が排泄されにくく、またリンパ節が多いため慢性的な炎症が治まりにくいとされています。
この現象を『中葉舌区症候群』と言います。
肺の上に病気があれば肺結核を疑う
肺尖部に好発する肺結核と,中葉舌区に好発するNTM症の局在の違いは,両疾患の重要な鑑別点である
尾下, 当院における肺結核臨床診断例の後方視的検討, 結核 97(3): 135-139, 2022
CTで『非結核性抗酸菌症の疑い』は様子見
診断基準を正しく守ると、CTだけで『非結核性抗酸菌症』を診断することはできません。
診断がつかなれば、治療することもありません。
肺NTMの診断には、痰の培養が必須です。
痰でPCR陽性より、痰の培養で陽性の方が有力な診断根拠になる
痰の培養で肺結核性抗酸菌症(肺NTM)の菌が陽性なら、肺NTMと診断できます。
しかし、痰(たん)で肺NTMのPCR(=核酸増幅法)が陽性でも、非結核性抗酸菌症の診断はしてはいけないことになっています。
痰のPCR陽性よりも、痰培養で陽性の方が、診断の根拠としては強いです。
PCRだけで肺NTMを診断してはいけない
検体直接核酸増幅法陽性は菌種同定に有用であるが,培養陽性の代わりにはならない
痰培養で陰性の時は『気管支鏡検査』
痰培養で肺NTMが陰性でも、咳やダルさの症状が強いために、菌の陽性を示さなければいけない時があります。
その時は、『気管支鏡検査(きかんしきょう・けんさ)』を行い、『診断するために良質な痰』を、肺の奥から採ってくることがあります。
気管支鏡検査は、肺の奥に胃カメラを入れるようなイメージで、想像通りとてもしんどい検査です。
しかし、プロが肺NTMを疑い気管支鏡検査を勧められた場合は、50%以上の確率で正しく診断がつくため、検査の提案には進んで受けても良いと思います。
痰培養で陰性の時に気管支鏡を行うと、60%は肺NTMと診断
肺NTM症を疑うも痰培養で陰性のため、気管支鏡を行った50例の検討:
- 30例(60%)が肺NTMと診断
結核の診断における気管支鏡検査の役割, 山谷, 気管支学 44(suppl): S208-S208, 2022
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非定型抗酸菌症も肺がんを発症するリスクが高い
- 肺NTMがあると、肺がんになりやすいです。
肺NTMと肺がんの関係│日本と欧米の違い
- 日本では、肺NTMがあると肺腺がんになりやすい
- 欧米では、肺NTMがあると頭頚部と肺の扁平上皮癌になりやすい
がんと結核・非結核性抗酸菌症, 田村, 結核 97(1): 13-20, 2022
非結核性抗酸菌症(マック症など)があると、肺がんになりやすい
- 非結核性抗酸菌症も肺癌リスクが高い
- 両疾患の合併では、以前は男性、肺扁平上皮癌の肺M. kansasii症例が多かった. 最近は女性、肺腺癌の肺M. avium complex症例が多い
田村, 国立病院機構東京病院呼吸器センター, 結核 97(1): 13-20, 2022
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肺がんと肺NTMを合併したらどうする?
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肺がんと肺NTMは合併しやすいです。
合併した場合は、肺がんの治療を優先することが多いです。
理由は、肺NTMは無症状のことが多いからです。
肺がんの治療をすると、免疫力が低下し、肺NTMが悪化するリスクがありますが、それでも肺がんの治療を優先します。
これらはケースバイケースなので、主治医の呼吸器専門医のお話をよく聞いて、治療方針を相談しましょう。
結核の予防接種
小児結核の予防接種は、生後5-8ヶ月でBCG(ハンコ注射)を行います。
時々、接種後に結核感染をすることもあるため、接種部位が赤くなったら、小児科専門医の診察が必要です。