喘息(ぜんそく)治療の最前線

喘息治療は、生物製剤(せいぶつ・せいざい)という注射薬が登場して大きく変わりました。

従来の喘息治療は、吸入薬を行っても発作が治まらない人にはステロイド薬、という方法しかありませんでした。

ステロイドは副作用も多く、長期には使いづらいものでした。

しかし、生物製剤を併用することで、喘息の重症化を防ぎ、ステロイド量を減らすことで、長期間安全に喘息を治療することができるようになってきました。

 

喘息の生物製剤注射

  1. ゾレア(オリマズマブ)
  2. ヌーカラ(メポリズマブ)
  3. ファセンラ(ベンラリズマブ)
  4. デュピクセント(デュピルマブ)

 

効果は高いが、薬の値段も高い

喘息の生物製剤は、喘息の重症化を防ぐことができる強力な薬です

副作用も、ステロイドに比べると少ないです。

治療効果が高い分、薬価もとても高く、1回の注射で、3割負担でも、5万円程度の費用がかかることもあります。

現在、日本には喘息に使える生物製剤が4種類があります。

 

ゾレア(オリマズマブ)

ゾレアは抗IgE抗体であり、アレルギーを起こすIgEを破壊(中和)します。

喘息だけでなく、アトピーでも使われます。

ゾレア注射を打つ前に、血中のIgEが高いことを確認します。

血清IgE抗体 100 IU/mL 以上であれば特に有効です。

ゾレアのみ、妊婦や授乳中でも安全に投与できます。

ゾレアの妊婦・授乳婦への安全性

オマリズマブ(ゾレア)は、妊婦への投与で主な先天性異常のリスクが上がらなかった.

Namazy JA. Pregnancy outcomes in the omalizumab pregnancy registry and a disease-matched comparator cohort. J Allergy Clin lmmunol 2020: 145: 528-36

 

 

ヌーカラ(メポリズマブ)

ヌーカラは抗IL-5抗体であり、好酸球性炎症を引き起こすIL-5を破壊(中和)します。

血中の好酸球数が高いときは特に有効です。

末梢血好酸球数 300/μL 以上(または好酸球の割合3%以上)を目安にします。

患者さんが自分で打つ『在宅自己注射』タイプもあります。

 

ファセンラ(ベンラリズマブ)

ファセンラは抗IL-5受容体抗体であり、ヌーカラ同様に好酸球性炎症を抑えます。

血中の好酸球数が高いときは特に有効です。

末梢血好酸球数 300/μL 以上(または好酸球の割合3%以上)を目安にします。

 

デュピクセント(デュピルマブ)

デュピクセントは抗IL-4受容体α抗体であり、IL-4が関与する喘息の発作を抑制します。

抗IL-4受容体抗体ですが、IL-13の受容体もブロックするように作用します。

気道過敏性・気道リモデリングも減弱させるのが特徴です。

患者さんが自分で打つ『在宅自己注射』タイプもあります。

 

好酸球を計測はステロイド使用前が良い

好酸球を計測するときは、ステロイドの影響がないときの方が正しく計測できます。

ステロイド投与後は4週間あけてから血液検査をします。

末梢血好酸球数 300/μL 以上(または好酸球の割合3%以上)が、ヌーカラ・ファセンラ使用の目安です。

ステロイド使用4週間は好酸球数が不安定

全身ステロイド投与後4週間は、末梢血好酸球の値が修飾されている可能性がある.

Lugogo NL: Blood eosinophil count group shifts and kinetics in severe eosinophilic asthma. Ann Allergy Asthma Immunol 2020; 125: 171-176

 

生物製剤の副作用

  • アナフィラキシー
  • 寄生虫感染
  • 帯状疱疹

 

すべての生物製剤でアナフィラキシーショックの可能性はゼロではありません

生物製剤を投与した直後はアレルギー症状が出やすく、これを『インフュージョン・リアクション(注射直後の反応)』と言います。

 

また、頻度は低いですが、寄生虫感染のリスクが上がる可能性があります。

ヌーカラとファセンラで、帯状疱疹のリスクが上がる可能性があるため、生物製剤の投与前に帯状疱疹ワクチンの接種が良いとされています。

生物製剤投与前の帯状疱疹ワクチンは、従来の生ワクチンよりも、『シングリックス』の方が高価ですが安全です。

喘息の生物製剤の注射前に、帯状疱疹のワクチン(シングリックス)を打っておいた方が良い

 

参考│
FitzGerald JM,  Benralizumab, an anti-interleukin-5 receptorαmonoclonal antibody. as add-on treatment for patients with severe, uncontrolled, eosinophilic asthma(CALIMA):arandomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 triaL The Lancet 2016; 388; 2128-41

 

生物製剤は、どういう人に向いている?

生物製剤は、『2型炎症』と呼ばれる病態の喘息に特に有効です。

2型炎症かどうかを見極める根拠は、

  • 血液の検査(好酸球数・IgE値)
  • 呼吸の検査(呼気中の一酸化窒素濃度)

です。

*当院では、呼吸の検査は実施していません。

 

従来の喘息治療

喘息の標準的な治療は、吸入薬・飲み薬を組み合わせる治療です。

それでも咳やゼイゼイ感が治まらないときは、『ステロイドの飲み薬』を使います。

 

喘息に対するステロイド治療

ステロイドの飲み薬は、『プレドニゾロン錠』と言います。

ステロイドの飲み薬は、『必要最低限の量を短期間だけ使う』ことが大切です。

 

成人の場合は、体重(kg)の半分のプレドニゾロン量(mg)を短期間使います。

  • 体重 40kgなら、プレドニゾロン 20mg
  • 体重 60kgなら、プレドニゾロン 30mg
  • 体重 80kgなら、プレドニゾロン 40mg

を、通常1週間以内で使います。

それでも喘息のコントロールがうまくいかないときは、プレドニゾロン 5mg を飲み続けます。

プレドニゾロンは5mgの少ない量であっても、感染症や骨粗鬆症のリスクがあります

プレドニゾロンを継続せざるを得ない場合は、感染症対策としてバイキンを予防する薬と骨を丈夫にする薬も併用していきます。

プレドニゾロンを長期で飲まないといけない場合は、生物製剤を使った方が、長期的に見た場合にはコストは高いですが、そのぶん安全性が高い治療と言えます。

 

プレドニゾロン5mgを継続しているのは、喘息でステロイド継続中の患者さんの中でも使用量の上位25%程度とされています。

 

参考│
・Matsunaga K. Association of low-dosage systemic corticosteroid use with disease burden in asthma. NPJ Prim Care Respir Med 2020; 30:35

 

喘息と併せて治療するべき病気

喘息に他の病気が合併しているときに、それらの病気を治療すると、喘息も良くなります。

  • 鼻炎・ちくのう症(副鼻腔炎)
  • 喫煙による肺の病気(肺気腫など)
  • 胃酸の逆流
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 肥満

これらがある場合は、喘息の治療とともに併せて治療するとより効果的に改善が見込めます。