子供が『目の見え方がおかしい』と、言ったら、それは『不思議の国のアリス症候群』かもしれません。
不思議の国のアリス症候群は、遠くのものが大きく見えたり、近くのものが小さく見えたり、距離感がつかめなくなったりします。
原因は、片頭痛(偏頭痛)、感染、てんかん、などと言われています。
怖い病気さえ除外できれば、多くは問診で診断がつきます。
アリス症候群の治療としては、原因となっている病気があれば、その治療をすることを優先するべきですが、だいたい頭痛があることが多いため、頭痛治療をするとアリス症候群の症状も良くなります。
原因となっている病気がない場合は、特別な治療法はありませんが、年齢とともに症状が自然と良くなることも多いので、不安になりすぎず、落ち着いて生活することが大切です。
子供から『頭がいたい』と訴えがあった時に、大切なのは、『適切な治療を求める家族の姿勢』と『お子さんの痛みを理解しようとする姿勢』です。 なぜなら、子どもの頭痛を治療するときは、予防薬が必要となることが多いからです。 また、お子さ[…]
不思議の国のアリス症候群とは?
不思議の国のアリス症候群は、
- 遠くのものが大きく見える
- 自分の体の一部や、ものが大きく見える
- 時間が実際よりも速く過ぎていく感じがする
などの奇妙な症状が出るため、この名前が付けれられました。
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不思議の国のアリス症候群の歴史
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1955年にトッド先生が、『不思議の国のアリス症候群』と名付けました
後述のように、不思議の国のアリス症候群の原因として、片頭痛が関係しているのではないかと言われています。
童話『不思議の国のアリス』の著者、ルイス・キャロルもまた、片頭痛に悩んでいました。
このルイス・キャロルの頭痛エピソードを踏まえて、トッド先生は『不思議の国のアリス症候群』と命名する、と1955年に医学誌で報告しています。
また、ルイス・キャロル自身も、不思議の国のアリス症候群を患っており、自分の体験を本にしたものが『不思議の国のアリス』ではないか、とも言われています。
1900年代半ばに発見│不思議の国のアリス症候群の歴史
1952年にリップマン先生が初めて報告し、1955年にトッド先生が『不思議の国のアリス症候群』と名付けた.
Farooq O, Pediatr Neurol. 2017 Dec;77:5-11
不思議の国のアリスの筆者も不思議の国のアリス症候群だった?│ルイス・キャロル
ルイス・キャロルも片頭痛(偏頭痛)に悩まされていた点にも注目し、『不思議の国のアリス症候群』と命名する.
J. TODD, The syndrome of Alice in Wonderland; Can Med Assoc J. 1955, Nov 1;73(9):701-4.
不思議の国のアリス(ルイス・キャロル原著)より抜粋
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不思議の国のアリス症候群は大人でもなる
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不思議の国のアリス症候群の症状は大人でも出ます
不思議の国のアリス症候群は、子どもだけの病気とは限りません。
大人でも同じ症状が出現することがあります。
大人の場合は、片頭痛(偏頭痛)が原因のことが多いと言われています。
大人も起こる『不思議の国のアリス症候群』
不思議の国のアリス症候群は、成人では片頭痛が原因のことが多い.
子どもでは、EBウィルスが原因のことが多い.
Mastria G, Biomed Res Int. 2016;2016:8243145
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不思議の国のアリス症候群は怖い病気ではない│脳腫瘍の除外は必要
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不思議の国のアリス症候群は、怖くない病気です
不思議の国のアリス症候群は、怖くない病気です。
基本的には自然に治ってしまうことも多く、心配することはありません。
ただ、稀に怖い病気(脳腫瘍など)のこともあるため、一度医療機関に受診して早めに検査を受けておきましょう。
MRIで脳腫瘍の除外が必要│不思議の国のアリス症候群の検査
不思議の国のアリス症候群の原因が、脳腫瘍のこともある.
Farooq O, Pediatr Neurol. 2017 Dec;77:5-11
不思議の国のアリス症候群の原因
- 片頭痛
- 感染症
- てんかん
不思議の国のアリス症候群の原因は、片頭痛、感染症、てんかんなどの原因が言われていますが、脳のどの部分の異常なのかは未だ明らかになっていません。
見え方がおかしくなるため、脳の中でも、視覚を調節する部分(後頭葉)に異常があるのではないかと言われていますが、他の部分の異常ではないか、という考え方もあり、結局、どこの部分の異常かは、まだわかっていません。
また、アリス症候群と診断をつけるためには、その他の病気でないことを確認することが必要です。
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アリス症候群の原因となる病気(医療者向け)
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- 脳幹性前兆を伴う片頭痛
- EBウイルス感染症
- 側頭葉てんかん
不思議の国のアリス症候群の原因│感染症・てんかん・偏頭痛など
報告されている原因には、感染症(特にEBウィルス)、片頭痛、てんかん、うつ病、薬物中毒、及び熱性のせん妄、がある.
Lanska DJ, Front Neurol Neurosci. 2018;42:142-150
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不思議の国のアリス症候群の原因となり得るウィルス
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- EBウィルス
- インフルエンザA(H1N1)
- コクサッキーB1ウイルス
- ライム病
- 単純ヘルペスウィルス
- 水痘(水ぼうそう)
- 帯状疱疹ウィルス
- エンテロウイルス
脳症を起こすウィルスは、不思議の国のアリス症候群の原因になり得ます。
中でも多いものはEBウィルスです。
EBウィルスの子どもの3割が不思議の国のアリス症候群になったという報告もあります。
EBウィルスに感染すると3割が不思議の国のアリス症候群になる
EBウィルスの子ども10人のうち、3人が不思議の国のアリス症候群を発症した.
M. Häusler, J Med Virol, 68 (2002), 253-263
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アリス症候群の原因は後頭葉にあるとする説
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不思議のアリス症候群は『後頭葉の血流不足が原因』説
後頭葉の血流低下が、不思議の国のアリス症候群の症状に関わっていると考えられる.
K. Brumm, J Am Assoc Pediatr Ophthalmol Strabismus, 14 (2010), 317-322
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アリス症候群の原因は側頭葉にあるとする説
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不思議の国のアリス症候群は『側頭葉の血流不足が原因』説
不思議の国のアリス症候群の患者4人すべてが、側頭葉の血流が低下していた.
Y.T. Kuo, Pediatr Neurol, 19 (1998), 105-108
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不思議の国のアリス症候群は、ストレスでもなる
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ストレスから片頭痛が頻繁にあると、不思議の国のアリス症候群も起こしやすい状態になります
ストレス自体が不思議の国のアリス症候群を引き起こすとはされていません。
しかし、ストレスは片頭痛(偏頭痛)の原因にはなります。
不思議の国のアリス症候群の原因の多くが、片頭痛であるため、ストレスがきっかけとなり、不思議の国のアリス症候群を引き起こしてしまう可能性はあります。
不思議の国のアリス症候群の症状
- 遠くのものが大きく見える
- ものが小さく見える
- 近くのものが遠くに見える
- ゆがんで見える
- 動物が見える
- 距離感がつかめなくなる
- ふわふわする感じが続く
- 時間の流れを速く感じる
『見え方がおかしい』、『なにかおかしい』とのことで受診される方が多いです。
このように、アリス症候群は、特に目の症状が強いため、眼科にまず受診する場合も多いです。
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不思議の国のアリス症候群の小視症│大視症│変視症
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不思議の国のアリス症候群の知覚症状
- 物が小さく見える(小視症)
- 物が大きく見える(大視症)
- 物が実際よりも遠くに見える
- 物が実際よりも近くに見える
Liu A.M, Pediatr Neurol, 51 (2014), pp. 317-320
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不思議の国のアリス症候群の幻覚『動物が見える』
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不思議の国のアリス症候群で『動物が見える』幻覚を起こすこともある
小視症、大視症、変視症、に加えて、『動物が見える幻覚』も起こる.
動物が見える幻覚は、小動物(アリ、カブトムシ、マウスなど)が見える場合と、より大きな動物(トラ、象、鳥、犬など)が見える場合がある.
D.H. Ffytche, Dialogs Clin Neurosci, 9, 173-189, 2007
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不思議の国のアリス症候群は距離感がおかしくなる
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不思議の国のアリス症候群で『距離感がつかめない』│スポーツ少年は不利
距離感や奥行きの感覚に異常をきたす.
廊下が非常に長いように見えたり、地面が近すぎたり遠すぎるように見えることがある.
J.R. Lanska, Neurology, 80, 1262-1264, 2013
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不思議の国のアリス症候群と『早送り感』
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時間間隔の欠如
通常の動きは、物事がスローモーションで動いているかのように見える.
逆に、遅い動きは、信じられないほど速いように見える場合がある.
時間感覚の欠如は、重度の見当識障害を起こすことがある.
I.M. Binalsheikh, Pediatr Neurol, 46, 185-186, 2012
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症状はすぐ治まる
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症状は、数分から数日で治まることが多いです
不思議の国のアリス症候群の症状は、数分から数日間で治まることが多いです。
基本的には慌てず、様子見で構いません。
不思議の国のアリス症候群の症状はすぐ収まる
不思議の国のアリス症候群の症状の継続時間は、数分から数日程度である.
Lanska JR, Neurology 2013;80:1262–1264
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症状が一生続く人もいる
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症状が一生継続する人もいます
症状は一般に数分から数日で治まります。
しかし、中には『症状が一生継続する』人もいます。
ただし、そのような方は非常にまれです。
生涯、症状が継続することもある
不思議の国のアリス症候群の症状が、一生継続する人もいる.
Blom JD, Lancet 2014;384, 1998
不思議の国のアリス症候群の検査と診断
- 症状の問診
- 脳のMRI
- 脳波
- VEP(視覚誘発電位)
- 脳血流シンチグラフィー
アリス症候群は、問診で診断がつくことが多いです。
『この検査をしたら、アリス症候群かどうかわかる』という検査はありません。
念のため、血液検査でEBウィルス感染症のチェックと、脳の構造が壊れていないか、脳腫瘍がないか、をMRIでチェックします。
脳のMRIで何も異常がなく、目の症状があれば、不思議の国のアリス症候群と診断されることが多いです。
専門的な施設では、てんかんの除外のために脳波、視覚の電気信号に異常がないかを調べるためにVEP、脳血流を見るためのシンチグラフィー(ラジオアイソトープ)検査を行うこともあります。
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不思議の国のアリス症候群と紛らわしい病気
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- 薬の副作用・中毒
- 精神病
きちんと診察を受けて、アリス症候群と紛らわしい病気を見逃さないようにすることが大切です。
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『絵を描いてもらう』ことも診断に有効
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『見えたものを絵で描いてもらう』と、診断に役に立つことがある
コーベット先生は、頭痛に伴う変視症(見え方がおかしくなる現象)に対して、正しく診断するために患者さんに絵を描いてもらいました。
発作が起きたら、絵を描いてもらう
頭痛の発作と目の錯覚が起きている間に、見えているものを絵で描いてもらうと良い.
J.J. Corbett, Neurol Clin, 1, 973-995, 1983
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麻薬中毒者でも幻覚症状が出る
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麻薬中毒ではないことを確認することも大切です
合成麻薬であるLSDでも、不思議の国のアリス症候群と同じような症状が出ます。
まさかとは思いますが、念のため、普段使っている薬や生活歴を確認することも大切です。
覚醒剤を遣っていないか念のため確認
リセルグ酸ジエチルアミド(LSD)は強力な幻覚剤であり、不思議の国のアリス症候群を一過性を引き起こす可能性がある.
H.D. Abraham, Addiction, 88 (1993), 1327-1334
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『片頭痛に関連する不思議の国のアリス症候群』の診断基準
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『片頭痛に関連する不思議の国のアリス症候群』の診断基準
- 変視症(小視症・大視症)、錯覚がある
- 持続時間が30分未満
- 頭痛または片頭痛の病歴を伴う
- MRI、髄液検査、脳波検査はすべて正常
Valença M. Headache. 2015;55(9):1233–1248
不思議の国のアリス症候群の治療
アリス症候群に特別な治療はありません。
アリス症候群の原因となっている病気があれば、その治療を優先して行います。
だいたい、片頭痛(偏頭痛)を合併しているため、頭痛の予防治療を行うことが多いです。
また、てんかん薬も有効です。
6割程度は自然に軽快するため、本人・ご家族が不安になりすぎないように、安心されられるよう医療者側が適切に説明することが求められます。