ガンマナイフは放射線治療の機械の名前です。
主に脳腫瘍の治療で使います。
“ナイフ” と言うと、手術のメスのような道具を思い浮かべるかもしれませんが、ガンマナイフの見た目はMRIやCTのようなとても大きい機械です。
日本国内で、ガンマナイフ治療ができる病院は、50~60施設あります。
ガンマナイフとは? 名前の由来は?
コバルト60のガンマ線を使った切れ味の良い放射線治療なので、ガンマナイフと呼ばれています。
“ガンマ”は治療用放射線にγ線を用いることから、“ナイフ”はナイフで切ったようにシャープに高線量域と低線量域が存在していることから,Leksell教授が命名した
定位放射線治療の現状と今後の展望; INNERVISION (31.11) 2016
英語では、”Gamma knife surgery” と言っています。
“surgery” は、手術という意味です。それだけ切れ味が良いイメージです。
似たような名前の機械で、サイバーナイフという治療もあります。
ガンマナイフは脳の病気だけを治療しますが、サイバーナイフは脳や体の病気(主にがん)を治療します。
ガンマナイフのメリット
- 脳の深いところも安全に治療できる
- 体の負担が少ない
- 複数の脳腫瘍も1回で治療
- 放射線での脳委縮や認知症が起きにくい
- 脱毛しない
手術がむずかしい脳の深いところの病気でも、ガンマナイフなら安全に治療できます。
あたまを開ける手術と比べて、体への負担が少ないので、持病があって手術に耐えられない患者さんや、高齢者の治療も可能です。
また、ガンマナイフでは、脱毛が極めて起こりにくい、というのも大きなメリットです。
脳の病気の治療が、2泊3日でできる
医療機関ごとに多少の違いはありますが、治療は2泊3日でできます。
病院によっては日帰り治療も行っています。
照射自体は、1日で終了します。
切らずに治すガンマナイフ治療は、2泊3日の入院治療
一般社団法人 日本ガンマナイフ学会HP より抜粋
ガンマナイフのデメリットと副作用
ガンマナイフのデメリットは、頭にネジを打って、器具を固定しないといけないということです。
このネジは局所麻酔(歯医者さんと同じ麻酔)をして、固定します。
このネジを “ヘッドピン” と言います。麻酔なしでは、痛くてとてもつけられません。
また、病気が再発して、次は開頭して手術する時に、手術がとてもやりにくくなるということです。
また、時々、壊死(えし)した組織が、嚢胞(のうほう)という水たまりを作って、それが大きくなることがあります。
脳の中に水たまりは、正常な脳を圧迫するため、頭痛を来したり、いろいろな症状の原因となったりします。
- ヘッドピンをつけないと治療できない
- ガンマナイフ後は、再手術しにくい
- 頭の中に水たまり(嚢胞)ができることがある
ガンマナイフのデメリットは、”手術がやりにくくなる”
ガンマナイフ治療は、狙った組織を破壊する治療です。
当たった周辺は炎症が起こり、癒着(ゆちゃく)します。
つまり、神経や血管などのいろいろな構造がべたべたに張り付いてしまいます。
ガンマナイフ治療の後に、『再発したので今回は手術をしましょう』と言っても、様々な組織がくっついて、手術の難易度が上がります。
傷つけてはいけない血管や神経が、腫瘍としっかりくっついて、はがれなくなっている場合もあります。
ガンマナイフで治療できる病気一覧
- 転移性脳腫瘍
- 神経鞘腫(聴神経腫瘍)
- 脳動静脈奇形
- 三叉神経痛
- 硬膜動静脈瘻
- 髄膜腫
- 下垂体腺腫
- 頭蓋咽頭腫
脳腫瘍であっても良性のものや、手術の難しい血管の病気や、三叉神経痛などの痛みの治療もできるのがポイントです。
日本では、他の国と比べて、転移性脳腫瘍(脳への転移)に対するガンマナイフ治療が多いです。
日本の特徴は欧米諸国に比べ、良性腫瘍に対する治療の割合が少なく、転移性脳腫瘍に対する治療割合が極めて高いことである
Nippon Rinsho; Vol74, Suppl 7, 2016
ガンマナイフ治療は、主に脳腫瘍と脳血管の病気に使われる
脳腫瘍も脳血管の病気もあたまを開ける手術は難しいものが多いです。
とりわけ、脳腫瘍は、”脳の深くにあって手術では安全に取り切れないもの” が良い適応です。
また、脳血管の病気も、”脳動静脈奇形(のう・どうじょうみゃく・きけい)”という、手術の難易度が高い病気を対象としています。
ガンマナイフの治療効果
報告によってさまざまですが、一般的な治療の成功率は報告があります。
転移性脳腫瘍、聴神経腫瘍、脳動静脈奇形などは、3センチ未満のものにガンマナイフを照射した結果となります。
病気を制御できる率 (奏効率) |
|
転移性脳腫瘍 | 80-90% |
聴神経腫瘍 | 90% |
脳動静脈奇形 | 80-90% |
三叉神経痛 | 80% |
3cm以下の脳転移巣に対して、線量20~24Gyのガンマナイフ照射により、80~90%に局所腫瘍制御が得られる
J.Neurosurg, 105(Suppl)86~90, 2006
脳動静脈奇形のナイダスをターゲットとして、線量20Gyのガンマナイフ照射により、3年で80~90%に完全閉塞が得られる
定位放射線治療の現状と今後の展望; INNERVISION (31.11) 2016
聴神経腫瘍に対して、線量12Gyのガンマナイフ照射により、15年で90%以上の腫瘍制御が得られる
その際の顔面神経機能温存率はほぼ100%である
定位放射線治療の現状と今後の展望; INNERVISION (31.11) 2016
ガンマナイフで脳腫瘍の完治を見込める?
『腫瘍が完全に消失する』 という意味の完治は見込めない場合も多いです。
しかし、『腫瘍が大きくならなければ制御できている』という考え方もあります。
『腫瘍が大きくならなければ良い』というのは、放射線治療に限らず、抗がん剤などの腫瘍の治療全般に言えます。
どんな腫瘍でもガンマナイフで治る?
ガンマナイフは “切らずに治す” とても便利な機械ですが、治療できる病気は限られています。
腫瘍の中でも、脳にできた腫瘍(脳腫瘍)しか治療できません。
ガンマナイフでは、胃がんや大腸がんを治療することはできません。
すべての脳腫瘍はガンマナイフできる?
脳腫瘍の中でも、3cm未満の大きさのものが治療の対象になります。
周りの組織にやさしいガンマナイフであっても、大きすぎる腫瘍に照射すると、さすがに周りの組織を傷めてしまうので、治療できません。
三叉神経痛がガンマナイフで治る
三叉神経痛にもガンマナイフは有効性が認められています。
三叉神経痛の奏効率は、80%と言われています。
ただし、効果には個人差があるため、ガンマナイフの専門の先生のお話も聞いた方が良いです。
三叉神経痛に保険適応のある放射線治療はガンマナイフだけ
三叉神経痛に保険適応のある放射線治療は、ガンマナイフだけです。
サイバーナイフや、IMRT(ノバリス)などの放射線治療は、三叉神経痛に対する保険適応はありません。
ガンマナイフを1回当てても再発した時は、手術の方が良い
三叉神経痛に対して、ガンマナイフ治療を受けたものの、痛みが再発してしまった場合は、次に受けるべきは開頭手術です。
2回目の治療は手術の方が、治りが良いという研究が、2014年にアメリカから出ています。
“ガンマナイフ治療を既に行っている三叉神経痛” に対しては、もう1回ガンマナイフ治療をするよりも、手術をした方が、痛みの消失率が高かった
J Neurosurg 131: 1197-206, 2019
日本国内にガンマナイフは何台あるの?
日本国内に、50~60台程度のガンマナイフがあります。
ですので、各県1台ずつというイメージですが、都市部では人口が多い分だけ需要が多く、複数のガンマナイフ施設があります。
- 5台: 東京
- 4台: 大阪
- 3台: 愛知・兵庫・福岡
ガンマナイフは何歳からできるの?
ガンマナイフは、ミリ単位の治療になるため、原則じっとしていないとできません。
しかし、大学病院などでは、1歳未満でも全身麻酔下で治療されたりしています。
生後10か月の乳児でも、全身麻酔下にガンマナイフで治療した報告あり
小児の脳神経 VOL43 NO.22018
ガンマナイフの費用はいくらかかる?
ガンマナイフ治療の費用は、だいたい60万円です。
しかし健康保険の適応になりますので、自己負担額は、3割の約20万円になります。
この費用には、入院費用、検査費用、治療費用をすべて合わせて60万円ということです。
治療する腫瘍の個数がいくつあっても、この費用は変わりません。
また保険診療なので、高額医療制度も通常通り利用可能です。
ですので、実質的な自己負担額は、10万円以下です。
詳しくは治療を受けられる病院にもお問い合わせしていただければと思います。
- ガンマナイフの治療は、保険適応
- 実質的な自己負担額は、10万円以下
その他の放射線治療と比較
ガンマナイフは、サイバーナイフやノバリスと比べて、精度が良く、小さい病気にも向いています。
その精度(誤差)は、0.5mm程しか違いはありません。
ガンマナイフ | サイバーナイフ | ノバリス | |
エネルギー | コバルト60 | エックス線 | エックス線 電子線 |
固定方法 | ピン固定 マウスピース マスク |
マスク | マスク |
当てる場所 | 脳のみ | 脳・体幹 どこでも |
脳・体幹 どこでも |
精度(誤差) | 0.5mmの誤差 | 1mmの誤差 | 1mmの誤差 |
特徴 | 小さい病気が得意 1回の照射で治療 |
全身に当てられる 治療は複数回に分ける |
全身に当てられる 治療は複数回に分ける |