【検診で偶然見つかった時どうする?】肝臓の血管腫のMRI診断│肝血管腫

肝臓には、『血管腫(けっかんしゅ)』という腫瘍ができることがあります。

肝臓にできる血管腫なので、正式には『肝血管腫(かん・けっかんしゅ)』と言います。

肝血管腫は、無症状のことが多く、基本的には治療の必要はありません

大きな血管腫の場合は、破裂してしまったり、血液が固まる病気を発症する原因になったりしますが、そのような怖い事態になることは大変まれで、起こる可能性は低いです。

肝血管腫は手術をする必要がないので、正しく診断する必要がありますが、時々、肝臓の悪い腫瘍(がん)などと区別がつきにくいことがあります。

その区別をつける検査の中でも、ガイドラインでは、『造影MRI』が最も確定診断に向いているとされいます。

  1. 造影MRI
  2. 造影CT
  3. 造影超音波検査

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン

これらの検査はすべて『造影剤』を使った検査なので、アレルギーなどの副作用が出るリスクがあります

ですので、実際は、典型的な肝血管腫が疑われた場合や、小さいものであった場合は、このような『造影剤を使った検査』は省略して、サイズを計測して追跡していくことも多いです。

 

肝血管腫とは│海綿状血管腫

『肝血管腫(かん・けっかんしゅ)』とは、名前の通り、『肝臓にできる血管腫』のことです。

肝臓にできる良性の腫瘍の中では、最も多いものが『肝血管腫』です。

一般的には無症状の事が多く、偶然発見されることがほとんどです。

女性にやや多いですが、男性にももちろんできます。

肝血管腫の種類│医療者向け

 

  1. 海綿状(かいめんじょう)
  2. 毛細管性(もうさいかんせい)

肝血管腫は、2つに分けられますが、日常の診療ではそれ程区別されていません。

肝血管腫と言えば、通常は『海綿状血管腫(かいめんじょう・けっかんしゅ)』です。

肝血管腫の種類

血管腫は非上皮性良性腫瘍である.

肝に発生する血管腫は海綿状cavernousと毛細管性capillaryに大別されるが、日常遭遇するのは前者である.

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p3

 

 

肝血管腫の原因│説がいろいろあり

  1. 先天性過誤腫という説
  2. 生まれつきの血管異常とする説
  3. 遺伝という説
  4. ホルモンと関連するという説

肝血管腫の原因は、いろいろ言われていますが、定まっていません。

『生まれつきの過誤腫(かごしゅ)が、少しずつ変化して肝血管腫になった』、という説が、いまのところ有力です。

肝血管腫の原因は諸説いろいろあり

病因は明らかではないが,Nicholsらによる良性の先天性過誤腫という説が有力であるが、先天的な血管異常とする説や,遺伝性と考えられる家族内発生例も報告されている.

妊娠やestrogenやprogesterone治療により増大したという報告がある一方で、estrogen receptorを血管腫で認めなかったという報告や、閉経後でestrogen治療を行っていなくとも腫瘍が増大したという報告もあり、ホルモンとの関係は現在までのところはっきりしない.

吉本, 外科治療 96(増刊): 578-583, 2007

 

肝臓の血管腫の確定診断は造影検査が必要│肝血管腫の精密検査・画像診断

  1. 造影MRI
  2. 造影CT
  3. 造影超音波検査

肝臓の血管腫(肝血管腫)の確定診断には、造影検査が必要です。

中でも、肝血管腫の確定診断の方法として、ガイドラインで最も信頼性が高い検査は、『造影MRI』です。

しかし、典型的なものや、小さい塊の段階では、造影しない検査で安全に追跡したりします。

肝血管腫の確定診断

肝血管腫の確定診断に最も信頼性の高い検査法は、造影検査を含むMRIである.

次いで、造影CT造影超音波検査が有用である.

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p30

造影MRIと造影CTの比較│肝血管腫

造影MRIの方が、コントラストが造影CTよりも強く、診断しやすい

MRIはコントラストがCTよりも良い

MRIではT2強調像とダイナミックMRIの組み合わせで大部分の症例では正確に診断可能である.

MRIはCTに比べて濃度分解能に優れているので、造影CTでは濃染の有無が不明瞭なfill-inの遅いタイプのものでも濃染として描出できるので、診断的価値が高い.

蒲田, 肝胆膵 42(3): 321-332, 2001

 

 

肝血管腫は経過観察が必要

肝血管腫は、経過観察が推奨されています

肝血管腫は、良性の腫瘍ですが、偶然見つかったものも含めて、画像で経過を追跡することが奨められています。

肝血管腫が大きくなる割合は、数%程度と報告されており、サイズが大きくなる可能性は低いです。

しかし、多くの医師が治療方針の参考にする『肝臓の血管腫のガイドライン』でも、『肝臓の血管腫は、サイズが変化する場合があり、経過を追跡していくことが推奨』されています。

肝血管腫は経過観察が必要

肝血管腫の経過観察は推奨される.

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p41

肝血管腫のサイズが大きくなる場合は数%程度

  • 61例の肝血管腫を12ヶ月追跡
  • サイズの増大は、3例(全体の4%)

Tait N. Hepatic cavernous hemangioma: a 10 year review. Aust N Z J Surg, 1992; 62: 521-524

 

肝血管腫の治療が必要な場合は?

  1. 腹痛など症状がある場合
  2. 急に大きくなった場合
  3. 破裂した場合
  4. 血液が固まる病気を合併した場合

肝血管腫は、経過観察される事が多いですが、時に治療が必要になる場合もあります。

  1. 手術
  2. カテーテル治療
  3. 放射線治療

治療方法は、手術が1番多く、安全に手術を終えられることが多いです。

しかし、破裂した場合は、命を落とす確率が3割程と厳しいものとなっています。

治療をする理由で1番多いのは、腹痛

腹痛やお腹の張りがあれば、治療が必要の場合があります

肝血管腫は、通常、無症状です。

しかし、お腹の張りや、腹痛などの症状がある場合は、手術の適応となります。

手術となる理由で最も多いものは、『画像で大きくなっていること』ではなく、『症状が出ること』です。

治療の理由は、『症状が出たから』が最多

治療対象となった原因で、最も多かったのは、臨床症状(腹痛や腹部膨満感)の発現である.

Demircan O. Surgical approach to symptomatic giant cavernous hemangioma of the liver. Hepatogastroenterology 2005; 52: 183-186

 

 

肝血管腫の診断Q&A│医療者向け

肝血管腫は、大きくなる場合も、小さくなって消える場合もある

肝血管腫は、大きくなる場合も、小さくなって消える場合もあります

肝血管腫は、1年間で数%が大きくなると報告されていますが、小さくなったり、中にはそのまま消えてしまう場合もあります。

肝血管腫は、小さくなって消える場合もある

血管腫は、少数ながらサイズの変化(増大や縮小や消失)を認める症例が存在する.

経過観察によりサイズの変化をみることが推奨される.

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p41

 

10%は多発する│多発肝血管腫

肝血管腫の10%は、多発することがあります

普通、肝血管腫は1個が単発で存在することが多いです。

しかし、1割程度が、多発する場合があります。

約10%の肝血管腫が多発する

肝血管腫は、通常は単発であるが、10%に多発することがある.

Ishak KG. Mesenchymal tumors of the liver, Hepatocellular carcinoma. 1976, p247-307

 

典型的でない肝血管腫は、診断が難しい

 

  1. APシャントがあるもの
  2. 造影早期から全体が染まるもの
  3. 後期相で一部が点状に染まるもの
  4. あまり造影されないもの

典型的ではない肝血管腫は、診断が難しいとされています。

典型的でない肝血管腫のパターン

肝血管腫の一部には、

  • 動脈門脈短絡(APシャント)を示すもの
  • 造影早期相から全体が強く濃染するもの
  • 後期相で一部が点状に濃染するもの
  • 後期相まであまり濃染しないもの

があるが、このような非典型的所見への理解が進み、高い確信度をもって肝血管腫を診断することが可能になっている.

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p30

MRIの精度は4mm│肝血管腫のMRI

肝血管腫の検出精度

MRIは多くの血管腫がT2強調像にて強い高信号を呈し、4mm前後の血管腫の検出も可能.

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p30

典型的な肝血管腫のMRIパターン

 

  1. 丸い
  2. 均一なT2高信号

丸くて、均一なT2高信号であれば、肝血管腫の典型的パターンと言えます。

しかし、これだけの所見では、肝血管腫と正しく診断できないことも知られています。

MRI T2強調像での高信号は血管腫に特異的か?

推奨グレード C1:特異的ではない

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p36

 

MRIの『T2高信号』だけでは、肝血管腫とは言えない

 

  1. 肝細胞がん
  2. 粘液がん
  3. 血管肉腫
  4. 転移性肝がん

肝血管腫のMRIでの特徴は、『T2高信号』ですが、それだけでは肝血管腫とは言えません。

むしろ、危ない悪性腫瘍も紛れている可能性を疑うことが大切です。

T2高信号の肝腫瘍

良性:

  • telangiectatic FNH

 

悪性:

  • 肝細胞癌
  • 粘液癌
  • 血管肉腫
  • カルチノイド
  • 膵内分泌腫瘍
  • 褐色細胞腫
  • 転移性肝腫瘍(肉腫・肺癌・膵癌・子宮癌・卵巣癌)

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p36

 

造影せずに肝血管腫を診断する方法│ダブルエコー法

 

『ダブルエコーSE法によるT2強調画像』 は、肝血管腫と他の腫瘍を区別するのに便利です

『造影剤を使わないMRI』でも、撮影方法を工夫すると、肝血管腫とその他の悪性腫瘍との区別がつきやすくなります。

その他にも、『ADC値』を見ることで、悪性の肝腫瘍との区別をします。

ダブルエコー法による肝血管腫の診断

double echo T2強調像およびこれを元にしたT2値計算が、血管腫と充実性腫瘍との鑑別に有用である.

肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p23