肝臓には、『血管腫(けっかんしゅ)』という腫瘍ができることがあります。
肝臓にできる血管腫なので、正式には『肝血管腫(かん・けっかんしゅ)』と言います。
肝血管腫は、無症状のことが多く、基本的には治療の必要はありません。
大きな血管腫の場合は、破裂してしまったり、血液が固まる病気を発症する原因になったりしますが、そのような怖い事態になることは大変まれで、起こる可能性は低いです。
肝血管腫は手術をする必要がないので、正しく診断する必要がありますが、時々、肝臓の悪い腫瘍(がん)などと区別がつきにくいことがあります。
その区別をつける検査の中でも、ガイドラインでは、『造影MRI』が最も確定診断に向いているとされいます。
- 造影MRI
- 造影CT
- 造影超音波検査
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン
これらの検査はすべて『造影剤』を使った検査なので、アレルギーなどの副作用が出るリスクがあります。
ですので、実際は、典型的な肝血管腫が疑われた場合や、小さいものであった場合は、このような『造影剤を使った検査』は省略して、サイズを計測して追跡していくことも多いです。
肝血管腫とは│海綿状血管腫
『肝血管腫(かん・けっかんしゅ)』とは、名前の通り、『肝臓にできる血管腫』のことです。
肝臓にできる良性の腫瘍の中では、最も多いものが『肝血管腫』です。
一般的には無症状の事が多く、偶然発見されることがほとんどです。
女性にやや多いですが、男性にももちろんできます。
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肝血管腫の種類│医療者向け
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- 海綿状(かいめんじょう)
- 毛細管性(もうさいかんせい)
肝血管腫は、2つに分けられますが、日常の診療ではそれ程区別されていません。
肝血管腫と言えば、通常は『海綿状血管腫(かいめんじょう・けっかんしゅ)』です。
肝血管腫の種類
血管腫は非上皮性良性腫瘍である.
肝に発生する血管腫は海綿状cavernousと毛細管性capillaryに大別されるが、日常遭遇するのは前者である.
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p3
肝血管腫の原因│説がいろいろあり
- 先天性過誤腫という説
- 生まれつきの血管異常とする説
- 遺伝という説
- ホルモンと関連するという説
肝血管腫の原因は、いろいろ言われていますが、定まっていません。
『生まれつきの過誤腫(かごしゅ)が、少しずつ変化して肝血管腫になった』、という説が、いまのところ有力です。
肝血管腫の原因は諸説いろいろあり
病因は明らかではないが,Nicholsらによる良性の先天性過誤腫という説が有力であるが、先天的な血管異常とする説や,遺伝性と考えられる家族内発生例も報告されている.
妊娠やestrogenやprogesterone治療により増大したという報告がある一方で、estrogen receptorを血管腫で認めなかったという報告や、閉経後でestrogen治療を行っていなくとも腫瘍が増大したという報告もあり、ホルモンとの関係は現在までのところはっきりしない.
吉本, 外科治療 96(増刊): 578-583, 2007
肝臓の血管腫の確定診断は造影検査が必要│肝血管腫の精密検査・画像診断
- 造影MRI
- 造影CT
- 造影超音波検査
肝臓の血管腫(肝血管腫)の確定診断には、造影検査が必要です。
中でも、肝血管腫の確定診断の方法として、ガイドラインで最も信頼性が高い検査は、『造影MRI』です。
しかし、典型的なものや、小さい塊の段階では、造影しない検査で安全に追跡したりします。
肝血管腫の確定診断
肝血管腫の確定診断に最も信頼性の高い検査法は、造影検査を含むMRIである.
次いで、造影CTや造影超音波検査が有用である.
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p30
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造影MRIと造影CTの比較│肝血管腫
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造影MRIの方が、コントラストが造影CTよりも強く、診断しやすい
MRIはコントラストがCTよりも良い
MRIではT2強調像とダイナミックMRIの組み合わせで大部分の症例では正確に診断可能である.
MRIはCTに比べて濃度分解能に優れているので、造影CTでは濃染の有無が不明瞭なfill-inの遅いタイプのものでも濃染として描出できるので、診断的価値が高い.
蒲田, 肝胆膵 42(3): 321-332, 2001
肝血管腫は経過観察が必要
肝血管腫は、良性の腫瘍ですが、偶然見つかったものも含めて、画像で経過を追跡することが奨められています。
肝血管腫が大きくなる割合は、数%程度と報告されており、サイズが大きくなる可能性は低いです。
しかし、多くの医師が治療方針の参考にする『肝臓の血管腫のガイドライン』でも、『肝臓の血管腫は、サイズが変化する場合があり、経過を追跡していくことが推奨』されています。
肝血管腫は経過観察が必要
肝血管腫の経過観察は推奨される.
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p41
肝血管腫のサイズが大きくなる場合は数%程度
- 61例の肝血管腫を12ヶ月追跡
- サイズの増大は、3例(全体の4%)
Tait N. Hepatic cavernous hemangioma: a 10 year review. Aust N Z J Surg, 1992; 62: 521-524
肝血管腫の治療が必要な場合は?
- 腹痛など症状がある場合
- 急に大きくなった場合
- 破裂した場合
- 血液が固まる病気を合併した場合
肝血管腫は、経過観察される事が多いですが、時に治療が必要になる場合もあります。
- 手術
- カテーテル治療
- 放射線治療
治療方法は、手術が1番多く、安全に手術を終えられることが多いです。
しかし、破裂した場合は、命を落とす確率が3割程と厳しいものとなっています。
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治療をする理由で1番多いのは、腹痛
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腹痛やお腹の張りがあれば、治療が必要の場合があります
肝血管腫は、通常、無症状です。
しかし、お腹の張りや、腹痛などの症状がある場合は、手術の適応となります。
手術となる理由で最も多いものは、『画像で大きくなっていること』ではなく、『症状が出ること』です。
治療の理由は、『症状が出たから』が最多
治療対象となった原因で、最も多かったのは、臨床症状(腹痛や腹部膨満感)の発現である.
Demircan O. Surgical approach to symptomatic giant cavernous hemangioma of the liver. Hepatogastroenterology 2005; 52: 183-186
肝血管腫の診断Q&A│医療者向け
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肝血管腫は、大きくなる場合も、小さくなって消える場合もある
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肝血管腫は、大きくなる場合も、小さくなって消える場合もあります
肝血管腫は、1年間で数%が大きくなると報告されていますが、小さくなったり、中にはそのまま消えてしまう場合もあります。
肝血管腫は、小さくなって消える場合もある
血管腫は、少数ながらサイズの変化(増大や縮小や消失)を認める症例が存在する.
経過観察によりサイズの変化をみることが推奨される.
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p41
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10%は多発する│多発肝血管腫
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肝血管腫の10%は、多発することがあります
普通、肝血管腫は1個が単発で存在することが多いです。
しかし、1割程度が、多発する場合があります。
約10%の肝血管腫が多発する
肝血管腫は、通常は単発であるが、10%に多発することがある.
Ishak KG. Mesenchymal tumors of the liver, Hepatocellular carcinoma. 1976, p247-307
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典型的でない肝血管腫は、診断が難しい
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- APシャントがあるもの
- 造影早期から全体が染まるもの
- 後期相で一部が点状に染まるもの
- あまり造影されないもの
典型的ではない肝血管腫は、診断が難しいとされています。
典型的でない肝血管腫のパターン
肝血管腫の一部には、
- 動脈門脈短絡(APシャント)を示すもの
- 造影早期相から全体が強く濃染するもの
- 後期相で一部が点状に濃染するもの
- 後期相まであまり濃染しないもの
があるが、このような非典型的所見への理解が進み、高い確信度をもって肝血管腫を診断することが可能になっている.
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p30
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MRIの精度は4mm│肝血管腫のMRI
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肝血管腫の検出精度
MRIは多くの血管腫がT2強調像にて強い高信号を呈し、4mm前後の血管腫の検出も可能.
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p30
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典型的な肝血管腫のMRIパターン
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- 丸い
- 均一なT2高信号
丸くて、均一なT2高信号であれば、肝血管腫の典型的パターンと言えます。
しかし、これだけの所見では、肝血管腫と正しく診断できないことも知られています。
MRI T2強調像での高信号は血管腫に特異的か?
推奨グレード C1:特異的ではない
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p36
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MRIの『T2高信号』だけでは、肝血管腫とは言えない
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- 肝細胞がん
- 粘液がん
- 血管肉腫
- 転移性肝がん
肝血管腫のMRIでの特徴は、『T2高信号』ですが、それだけでは肝血管腫とは言えません。
むしろ、危ない悪性腫瘍も紛れている可能性を疑うことが大切です。
T2高信号の肝腫瘍
良性:
- telangiectatic FNH
悪性:
- 肝細胞癌
- 粘液癌
- 血管肉腫
- カルチノイド
- 膵内分泌腫瘍
- 褐色細胞腫
- 転移性肝腫瘍(肉腫・肺癌・膵癌・子宮癌・卵巣癌)
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p36
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造影せずに肝血管腫を診断する方法│ダブルエコー法
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『ダブルエコーSE法によるT2強調画像』 は、肝血管腫と他の腫瘍を区別するのに便利です
『造影剤を使わないMRI』でも、撮影方法を工夫すると、肝血管腫とその他の悪性腫瘍との区別がつきやすくなります。
その他にも、『ADC値』を見ることで、悪性の肝腫瘍との区別をします。
ダブルエコー法による肝血管腫の診断
double echo T2強調像およびこれを元にしたT2値計算が、血管腫と充実性腫瘍との鑑別に有用である.
肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン, p23