【傷が早くキレイに治るために】プロが行う傷の処置

 

ケガしたら洗浄はひとまず水道水でOK

ケガをして創部がパックリ開いてしまったら縫わなければ傷は閉じません。

感染予防の観点から大切なのは、ケガをした直後の洗浄です。

これは、病院での消毒や洗浄ではなく、自宅での水道水でOKです。

なるべく早く洗浄しましょう。

傷口は水道水で洗えばOK

救急病院を受診した46例について、縫合前に水道水で洗浄した症例と、生理食塩水で洗浄した症例では、術後48時間における感染率に差はなかった.

Bansal BC: Tap water for irrigation of lacerations. Am J Emerg Med, 20: 469-472, 2002

 

 

刺さった傷は意外と深い

何かが刺さった傷は意外と深いです。

『このくらいはいいだろう』と過小評価せず、レントゲンを撮影して、異物の混入がないことを確認することが大切です。

 

木が刺さるとレントゲンで見えない

金属の異物が傷の中に入っている場合、レントゲン診断はそれ程難しくないです。

木材・木片が傷に混入している場合、レントゲンでは見えない場合があります

木材・木片が入っている場合は、数日すると、CTで白く見えるようになり、画像診断できます

ただし、その前に炎症や感染が続いていれば、傷口をまた開いて、創部を洗浄して縫合し直します。

また、傷の中に金属が混入している場合は、MRIは撮影できません(とても重要です)

 

参考│
・大谷, 眼窩木片異物のCT値の経時的変化, 日本眼科紀要, 42: 12-62, 1991

 

テープ製品も傷に合わせて使う

傷に貼るテープ製品(ドレッシング材)では、ドラッグストアなどで『キズパワーパッド(ジョンソン&ジョンソン)』が売っています。

キズパワーパッドは『ハイドロコロイド』という成分が使われているテープ製品です。

これは、傷に水分を含ませたまま創傷治癒させる『湿潤療法』という考え方です。

病院用の製剤として、当院では『デュオアクティブET』を使用します。

デュオアクティブETは、内側はキズパワーパッドと同様にハイドロコロイド成分であり、外側はポリウレタンフィルムが使用され、水分を逃さないようにしています。

 

デュオアクティブETは、ほくろ取りやシミ取りレーザーの直後にも使われます

その場合は、3-4日に1回ずつ張り替えて、約2週間貼ります

ずっと張りっぱなしだとテープ跡が残るため、顔の場合は特に3-4日で剥がすのがポイントです。

 

  1. ポリウレタンフィルム
  2. ハイドロコロイド
  3. ハイドロジェル
  4. アルギン酸塩
  5. キチン
  6. ハイドロファイバー
  7. ハイドロポリマー
  8. ポリウレタンフォーム

保険診療では、擦過傷(すり傷)に対してのみ、これらのテープ材(ドレッシング材)は適応となります。

しかし、とても良い医療資材であるため、適応を選んで、切り傷・手術後の傷・やけど、などにも使用することがあります。

 

汚い傷には『破傷風ワクチン』を打つ

破傷風は土や動物に付いている菌で、感染すると致死的な筋硬直が起こります。

破傷風の予防接種は、最終接種から10年以上経過している場合は、外傷直後に追加接種をすることが望ましいです。

 

参考│
・Kretstinger K. MMWR Recomm Rep, 55: 1-37, 2006

 

皮膚が黒く変色している部分は取り除く

黒く変色した皮膚には血流が通っておらず、感染予防のためにこの黒い皮膚を取り除く必要があります。

医療用のハサミで切るということになります。

『皮膚を切ると痛いのでは・・?』と思われるかもしれませんが、実際は正しい切除ラインで切れば全く痛くありません。

これは、黒色変化した部分は、『壊死(えし)』しており、神経も障害されており、感覚がなくなっているからです。

黒く変色した部分を、縫合した隙間から切除しながら傷を管理することも、抜糸の間に通院して頂く理由のひとつです。

 

参考│
・Brunner RG: A prospective, randomized clinical trial of wound debridement versus conservative wound care in soft-tissue injury from civilian gunshot wounds. Am Surg, 56: 104-7, 1990

 

ゲンタマイシン軟膏をワセリンとして使う

傷は湿潤して治癒させるのが基本となります。

当院では、傷に対して『ゲンタマイシン軟膏』を処方することが多いです。

この製剤は、ワセリンを基にして作られており、ワセリンとしての保湿効果を期待して使用しています。

ステロイド軟膏は、縫合した傷に対しては、治癒が遅れることが知られており、使用は控えています(ただしケースバイケースです)。

 

傷によって糸を変える

頭の傷は、パックリ割れる方向に力がかかっているため、傷が閉じにくいです。

なので、太い糸でしっかり縫うことが大切です。

このときも、顔の皮膚を縫うような『寄せるだけ』の縫い方ではなく、血流を保つように間隔をあけて縫います。

また、骨に近い深いところまで糸をかけて縫うことも、頭の傷がきちんときれいに縫えるポイントです。

ホッチキスは、きれいに縫うという観点からすると、ケガの傷では使いにくい道具となります。

ホッチキスは、手術で皮膚を閉じるときに『中縫い』をしている場合に有効です。

 

顔の傷は、細い糸を使います。

ケガの傷であれば、5-0というサイズの糸を使うことが多いです。

子供や、美容外科の手術では、さらに細い糸を使うこともあります。

 

手足や身体の傷は、通常の縫い方の他に、『マットレス縫合』という特殊な縫い方を行います。

皮膚が傷の中に入り込まないように、持ち上げるように縫います。

 

傷の大きさや、どのように受傷したか、挫滅(ざめつ)を伴っているか、などを総合的に判断して、道具や縫い方を適合していくことが上手に傷を管理するポイントです。

 

治癒しにくい傷には、強力なスプレー製剤

治癒しにくい傷には、『フィブラストスプレー』を使います。

これはひどいやけどの時にも使います。

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人工皮膚と植皮

皮膚がなくなった場合、狭い面積であれば人工皮膚で治癒が望めますが、広い範囲の皮膚欠損がある場合は、植皮が必要です。

人工真皮は、コラーゲンで作られた内層と、シリコンフィルムの外層が重ね合わさった製品です。

コラーゲン線維がどの生き物から作られたかで種類が違います。

牛から作られた製品(テルダーミス)と、豚から作られた製品(ペルナック)があります。

人工真皮は、包丁で指の先を切り落としてしまったりして、傷の面を閉じることができない時などに有効です。

血が出ている方にコラーゲンの面を当てて、皮膚に縫い付けます。

 

植皮は、自分の皮膚を当てるものです。

植皮を行う場合、総合病院への紹介を行っています。

 

ケロイド治療

ケロイド治療は、ステロイドの塗り薬・テープ薬と局所注射、飲み薬の治療、放射線治療、色素レーザー治療、シリコーンジェルシート、があります。

ステロイドの塗り薬は比較的強めのもので行います。

ステロイドのテープ材は、ドレニゾンテープが使われることが多いです。

ステロイド局所注射は、トリアムシノロン(ケナコルト) 10-40mg を月1回注射します。

40mgは筋注用の量なので、少量からの開始が良いです。

また、細い針で固いケロイドに刺すため、ロック付きシリンジという注射器で圧入する方が安全です。

飲み薬は、トラニラスト(製品名:リザベン・ブレクルス)があります。

放射線治療は、ガイドラインには記載があるものの、一般的に行われることはまだ多くはありません。

色素レーザー治療は、Nd:YAGが良いとされています。

 

ケロイド体質の人は、少しの傷でもケロイドが発生することがあるため、ピアスの穴あけもおすすめされていません。

 

参考│

・ケロイド肥厚性瘢痕診療ガイドライン, 形成外科診療ガイドライン
・茂木, ケロイド・肥厚性瘢痕, 日本医事新報 (5010): 47-47, 2020