【破裂しないように】まぶたが重くなる『眼瞼下垂』の原因と治療│医師が解説

まぶたが重くなる『眼瞼下垂(がんけん・かすい)』の1番多い原因は、『加齢』です。

しかし、時に緊急に処置をしなければいけない病気のこともあります。

まぶたが重くなった時に考えられる最も緊急性の高い病気は、『脳動脈瘤(のう・どうみゃくりゅう)』であり、破裂の危険があります。

その他に、『重症筋無力症(じゅうしょう・きん・むりょくしょう)』や、『脳梗塞』などの怖い病気もあります。

突然まぶたが重くなったと感じたら、一度、頭や脳のMRI検査を受けて、早期に治療を開始しましょう。

原因がわかればしっかり治ることが多いです。

 

結論:眼瞼下垂の原因では、『脳の動脈瘤』が1番怖い

まぶたが重くなったと感じたら、1番怖い病気は『脳動脈瘤』です。

この時、動脈瘤が破裂寸前まで膨らんでいて、まぶたを持ち上げる神経に接触していることがあります。

数日処置が遅れると命を落とすこともあり、とても怖い病気です。

 

眼瞼下垂の原因リスト

  1. 脳動脈瘤
  2. 脳梗塞
  3. 神経・筋肉の病気
  4. 加齢
  5. コンタクトレンズ着け過ぎ
  6. ケガ
  7. 生まれつき

眼瞼下垂の原因で1番多いのは、『加齢』です

加齢の場合は、手術で良くなります。

見逃してはいけない病気は、『脳動脈瘤』です

まぶたが重くなる程の脳動脈瘤であれば、かなり大きいため、MRIを撮影すればわかります。

MRIを撮影すると『脳梗塞』の診断もできます。

神経の病気で多いものは、『重症筋無力症(じゅうしょう・きん・むりょくしょう)』です。

この病気は、薬の治療で良くなりますが、原因として胸の奥に腫瘍(胸腺腫)があることもあり、腫瘍を取る手術が必要になることもあります。

 

脳動脈瘤が原因なら、緊急手術

まぶたが重い時に、脳動脈瘤が原因の時は、緊急手術が必要になります。

今までまぶたの症状が出ていなかったのに、突然、眼瞼下垂の症状が出たということは、脳動脈瘤が急に大きくなっていることを意味します。

急に大きくなる脳動脈瘤は、きわめて破裂しやすい状態なので、急いで処置しなければいけません。

手術の方法は、頭を開けてクリップを行う開頭手術と、瘤の中に詰め物をするカテーテル手術の2つがあります。

 

脳梗塞が原因なら、緊急入院

脳梗塞が原因でまぶたが下がっている時は、入院が必要です。

眼瞼下垂を起こす脳梗塞は、命の危険がある『脳幹梗塞(のうかん・こうそく)』のことが多いからです。

脳幹(のうかん)には、まぶたを上げる神経がある他に、心臓を動かしたり、呼吸をする神経が詰まっています。

脳幹梗塞が悪化すると、突然意識がなくなり、呼吸が止まる可能性があります。

すぐに病院へ受診し、診断をつけてもらうことが大切です。

 

神経・筋肉の病気は、血液検査で診断│重症筋無力症・動眼神経麻痺

神経・筋肉の病気で、まぶたが下がってしまう病気の代表は、『重症筋無力症(じゅうしょう・きん・むりょくしょう)』です。

これは、まぶたを動かす神経と、まぶたを動かす筋肉の間の神経伝達物質のやり取りがうまくいかなくなり、眼瞼下垂が起こります。

診断は、血液検査で『抗アセチルコリン受容体抗体』『抗Musk抗体(こう・ますく・こうたい)』を計測します。

これらの抗体が検出しない場合は、動眼神経麻痺として治療を行うこともあります。

動眼神経麻痺の原因リスト

  • 脳腫瘍(画像でわかりにくい場合あり)
  • 脳動脈瘤
  • 脳梗塞
  • 海綿静脈洞の病気
  • サルコイドーシス
  • ANCA関連血管炎
  • 肥厚性硬膜炎
  • 下垂体炎
  • トロサ・ハント症候群
  • 糖尿病
  • 末梢循環障害(多い)
  • 感染症(梅毒)
  • ワクチン関連

動眼神経麻痺の場合は、手術をしなければ治らないような重度の麻痺が出ることもあります。

また、目の奥が痛い、体のどこかが痛い、などの痛みを伴う場合は、『血管の炎症』が眼瞼下垂や目の症状の原因のこともあります。

 

重症筋無力症の症状

  1. 眼瞼下垂(まぶたが下がる)
  2. 複視(ものが二重に見える)

重症筋無力症は、約8割が目の症状で気づきます

はじめは目の症状だけだった場合でも、約20%の人が悪化して、体中の筋肉が動かしにくくなってきます1

その場合は、半年から1年以内に悪化します2

はじめは目の症状だったうち、2割の人が悪化して全身の筋肉が動かなくなります

 

重症無力症の診断

  1. 血液検査(抗体検査)
  2. 試験的にエドロホニウム注射

重症筋無力症の診断として、血液検査で、『抗アセチルコリン受容体抗体』『抗Musk抗体(こう・ますく・こうたい)』を計測することが信頼性が高いです。

その他に、エドロホニウム注射を試験的に行い、症状がよくなれば診断できます。

簡単な検査としては、『目を疲れさせる方法』と『アイスノンを当てる方法』があります。

まぶたの筋肉を疲れさせるために、視線を上して約1分たったときに、眼瞼下垂がひどくなれば、重症筋無力症の疑いがあります。

また、まぶたにアイスノンを当てて冷やすと症状が一時的に良くなることも特徴です。

抗体検査の信頼性は高い

  • 抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)は、重症筋無力症の全体の約80%で陽性
  • 抗Musk抗体は、抗AChR抗体陰性のうち約10%で陽性

重症筋無力症は、まず抗AChR抗体を計測すれば8割程度は診断できます。

 

重症筋無力症の治療

薬(メスチノン)による治療が主です。

効かない場合は、免疫を抑える薬を使っていきます。最近ではエクリズマブという薬も出ました。

重症筋無力症の中には、胸の奥に腫瘍(胸腺腫)を合併している人もいて、その場合は胸腺腫の手術を行います。

 

加齢による眼瞼下垂は手術

加齢により、まぶたが重くなってきたときは、まぶたを釣り上げる手術を行います。

直接まぶたを釣り上げる方法と、まぶたを動かす腱(筋肉)を短くする方法の2種類があります。

まぶたを動かす筋肉が動いていれば、なるべく腱の短縮術の方が選択されます。

眼瞼下垂の手術の方法

眼瞼下垂の手術の方法は、まぶたを上げる筋肉の障害の程度で変わる

  1. 軽度 – ミュラー筋短縮術
  2. 中等度 – 挙筋腱膜前転法
  3. 重度 – 挙筋短縮術
  4. 最重度 – 前頭筋つりあげ術

動眼神経麻痺では、挙筋機能を残さない例がほとんどで、前頭筋つり上げ術の適応となる.

末岡, 眼科グラフィック 10(1): 28-34, 2021

まぶたを釣り上げる筋力がなくなってしまっている場合は、直接まぶたを吊り上げる『前頭筋つりあげ術』が行われます。

 

参考文献

1. 重症筋無力症診療ガイドライン2014, p5

2. 鈴木, 自己抗体別重症筋無力症の臨床像, あたらしい眼科36(5)587~592,2019