『薬が全く効かない頭痛』に対する新薬が2021年1月に承認されました。
この新薬は、『抗CGRP抗体(こう・しーじーあーるぴー・こうたい)』と呼ばれる注射薬です。
最近では、芸人で活躍されているオードリーの若林さんがラジオで抗CGRP抗体で持病の頭痛が良くなったことを公表して、問い合わせが増えました。
これは全く新しいタイプの薬で、今までの頭痛薬よりも効果があるものです。
抗CGRP抗体の注射薬は、打った初日から頭痛を予防します。
メリットは、今までにない程の頭痛の予防効果です。
デメリットはコストです。
エムガルティはコストが高く、はじめの1回目は約3万円かかり、2ヶ月目以降は月2万円弱かかります。
しかし、そのコストを上回る程のメリットを感じる方は、注射の継続を強く希望します。
最近では、エムガルティの他に、アイモビーグ・アジョビといった似た作用を持つ他の製剤も出てきました。
参考
頭痛で悩まされる人は、日本でも数百万人います。
また、頭痛があることで、仕事ができなくなると、経済的な損失も大きいです。
頭痛をきちんと予防し、作業効率を高め、豊かで健康的な人生を送るために、頭痛の治療はとても大切です。
当クリニックでは、みなさんのライフスタイル(事務職、夜勤、育児中など)に合わせたオーダーメイドの頭痛治療を提案しています。
結論:『どうしても治らない頭痛』には、特別な注射薬『抗CGRP抗体 エムガルティ』
いろいろな薬を使っても治らない頭痛については、新しい注射薬を使って頭痛を治した方が良いです。
この注射薬は、『抗CGRP抗体(こう・しーじーあーるぴー・こうたい)』という種類の注射薬です。
この薬の名前は、ガルカネズマブ(エムガルティ)と言います。
頭痛の予防薬を2剤以上使っても、頭痛が抑えられない時が、抗CGRP抗体の注射を打つタイミングです。
片頭痛(偏頭痛)に使う痛み止めは、ロキソニン、バファリン、イブ、カロナール、トリプタン、などです。
一方、片頭痛(偏頭痛)の発作の『予防薬』は、バルプロ酸、トリプタノール、プロプラノロール、ミグシス、などがあります。
これらの『予防薬』を飲んでも頭痛が治らないときは、抗CGRP抗体を使うタイミングです。
逆に、『予防薬』を使ったことがなければ、まず『予防薬』を試す方が、国際的に標準的な治療となります。
当院では予防薬を積極的に処方して、『頭痛の起こらない治療』を目指しています。
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『ふつうの頭痛』にも使える注射なの?
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『普通の頭痛』であれば、一般的な痛み止めや、予防薬で抑えられます
いわゆる『普通の頭痛』は、筋肉の緊張などの肩こり頭痛や、軽い片頭痛(偏頭痛)です。
これらの『普通の頭痛』であれば、今まで使われていたようなロキソニンやバファリン、イブ、カロナールのような痛み止めや、バルプロ酸やミグシスなどの予防薬の組み合わせで、頭痛が良くなることが多いです。
抗CGRP抗体は、『一般的な薬では全く効かないような頭痛』に対して、特に有効です。
まだ薬価は発表されいませんが、患者さんのご負担も『決して安くない薬』です。
まずは、従来型の一般的な飲み薬による治療を担当医の先生にお願いしてみましょう。
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抗CGRP抗体は、どのように頭痛に効くの?
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頭痛を起こす原因の『CGRP』を減らして頭痛を治す薬です
『CGRP』は、『強い頭痛を起こす物質』です。
今までの頭痛薬では、CGRPの作用を直接止める薬はありませんでした。
抗CGRP抗体は、『頭痛を起こすCGRP』を直接破壊することで、体内のCGRPの量を減らし、頭痛が起こらないように予防していきます。
抗CGRP抗体の注射を打つと、注射1日目から頭痛を抑えられます。
片頭痛では、血中のCGRP濃度が高い
片頭痛患者の頚静脈の血中CGRP濃度を測定すると、発作時にCGRPの上昇が認められた.
片頭痛の発作は、CGRP濃度の上昇が関わっていると考えられた.
Goadsby PJ. Vasoactive peptide release in the extracerebral circulation of humans during migraine headache. Ann Neurol 28: 183-187, 1990
抗CGRP抗体は、CGRPを破壊(中和)する
『抗CGRP抗体のガルカネズマブ』は、『片頭痛を誘発するCGRP』に結合して中和することで頭痛を予防する.
Emgality (galcanezumab) . U.S. Prescribing Information. Eli Lilly and Company; 2018
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抗CGRP抗体の種類
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- ガルカネズマブ(エムガルティ)
- フレマネズマブ(アジョビ)
- エレヌマブ(アイモビーグ)
- エプチネズマブ
これら4つの薬は、すべてFDA(アメリカ食品医薬品局)で既に承認されています。
日本で最も早く承認され発売される薬は、『ガルカネズマブ』です。
『ガルカネズマブ』は、イーライリリー社(米国)と第一三共(日本)の共同開発した薬です。
2021年9月には、エムがルティ、アイモビーグ、アジョビ、の3剤が日本国内のクリニックでも使えるようになりました。
エムガルティとアジョビは、頭痛の原因物質のCGRPを壊す薬です。
アイモビーグは、CGRPが働かないように、先回りする薬です。
『薬が効かない頭痛』に対する抗CGRP抗体の効果
『どの薬も効かない頭痛』に対しても、抗CGRP抗体は効果を発揮する可能性は十分あります。
いろいろな薬を試しても薬が効かない難しい頭痛だったり、過去に病院を何軒変えても治らなかった頭痛については、特に試す価値のある治療です。
抗CGRP抗体の注射は、打った初日から頭痛予防の効果があるため、注射を継続するモチベーションも保てます。
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抗CGRP抗体は、注射した初日から効く│ガルカネズマブ│エムガルティ
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抗CGRP抗体の注射は、打った初日から頭痛の予防効果があります国際的な研究データで、抗CGRP抗体の注射は、打った初日から効くことが証明されています。
注射初日から効果的
ガルカネズマブの注射は、投与した初日から急速に頭痛の予防効果を示した.
Detke HC. Rapid onset of effect of galcanezumab for the prevention of episodic migraine: analysis of the EVOLVE studies. Headache 2020;60:348-359
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抗CGRP抗体は、月1回注射│ガルカネズマブ│エムガルティ
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抗CGRP抗体のガルカネズマブ(エムガルティ)は、月1回注射します
ガルカネズマブ(エムガルティ)は、月1回の注射です。
月に1回でも、4週間きちんと効きます。
ガルカネズマブの注射の効果は、1週目も4週目の変わりません。
ガルカネズマブは4週間効く
ガルカネズマブは、週ごとに一貫して効果を示した.
Stauffer VL. Evaluation of galcanezumab for the prevention of episodic migraine: the EVOLVE-1 randomized clinical trial. JAMA Neurol 2018; 75: 1080-1088
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月1注射薬の方が、飲み薬よりも頭痛が治りやすい可能性あり
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頭痛の予防薬の飲み薬は、毎日飲まないといけません
頭痛の予防薬の飲み薬は、毎日飲まないといけません。
そうすると、飲み忘れが出てくることがあります。
その点、月1回の注射であれば、飲み忘れもありません。
結果として、飲み忘れのない月1回の注射薬の方が、頭痛が治る可能性があります。
月1注射剤であれば、飲み忘れがない
ガルカネズマブは月1回の注射のため、飲み薬のように毎日飲む必要はなく、飲み薬よりも有利である.
Detke HC. Rapid onset of effect of galcanezumab for the prevention of episodic migraine: analysis of the EVOLVE studies. Headache 2020;60:348-359
抗CGRP抗体の副作用
目立った副作用の報告はありません。
トリプタンのような脳や心臓の血管への副作用もありません。
ですので、とても安全に使える薬です。
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抗CGRP抗体の注射は安全性が高い
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大規模な研究で、目立った副作用はありませんでした
国際的な大規模研究では、目立った副作用はありませんでした。
安全に使える薬です。
抗CGRP抗体の注射に目立った副作用なし
6ヶ月の治験で、心血管イベントを含む重篤な有害事象を認めなかった.
Oakes TM. Evaluation of Cardiovascular Outcomes in Adult Patients With Episodic or Chronic Migraine Treated With Galcanezumab: Data From Three Phase 3, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled EVOLVE-1, EVOLVE-2, and REGAIN Studies. OaHeadache. 2020
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妊婦や赤ちゃんにも目立った副作用の報告はない
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妊婦の流産や、胎児の奇形の副作用の報告はありません
今のところ、妊婦の方が抗CGRP抗体に使っても、流産の確率が上がったり、胎児の奇形率が上がるなどの悪い報告はありません。
ただ、世界的にもまだデータが不足しており、今後大規模なデータが集まれば、安全性がより確実なものとなります。
妊婦でも抗CGRP抗体は安全に使用できる
抗CGRP抗体を妊婦に使用しても、母体への毒性や、自然流産、胎児の先天異常、の増加を認めなかった.
Noseda R. Safety profile of erenumab, galcanezumab and fremanezumab in pregnancy and lactation: Analysis of the WHO pharmacovigilance database. Cephalalgia. 2021 Jan
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トリプタンよりも抗CGRP抗体の方が安全性が高い│医師向けの内容
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トリプタンのような血管収縮は、抗CGRP抗体では起こらない
トリプタンも片頭痛(偏頭痛)の特効薬として、良く効きます。
しかし、トリプタンは、頭痛を改善しながら血管収縮も起こしてしまうため、脳梗塞などの血管トラブルがあった方には使いにくい薬として知られています。
抗CGRP抗体では、トリプタンのような血管収縮は起こらないため、脳の血管の病気がある方でも、比較的安全に使うことができます。
エムガルティは、トリプタンよりも安全
CGRP 機能阻害は血管収縮を引き起こさないため、トリプタン以上に有望な治療戦略と考えられた.
柴田, 臨床神経 2020;60:668-676
片頭痛(偏頭痛)Q&A
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片頭痛(偏頭痛)の仕事への悪い影響をお金に換算するといくらですか?
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片頭痛のために、日本全体で、約3000億円の経済的損失があります
片頭痛(偏頭痛)が起こると、集中力が下がり、仕事に影響を与えます。
作業の効率が落ちて、安定した結果が出せなくなります。
その結果として、日本全体で、年間約3000億円の経済的損失となると試算された有名なデータがあります。
ですので、頭痛はきちんと予防して治した方が良いです。
片頭痛(偏頭痛)の経済的損失は大きい
片頭痛により、年間約3000億円の経済的損失があると試算される.
坂井. 治療 2011;93:1609-1613
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抗CGRP抗体の注射はいくらの値段で打てるの?
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初月は約3万円、2ヶ月目以降は月2万円弱かかります
エムガルティは高価な薬剤なので、医療費3割負担の方で、初回に約3万円かかり、その後は月2万円弱かかります。
その分、効果は絶大で、効く人はバチっと効き、1ヶ月間のトリプタン使用量をグッと減らすことができます。
当クリニックでも、毎日トリプタンを飲んでいる人が、『トリプタン量が半分以下になった』とおっしゃってました。
効く人か効きそうもない人かは、まずきちんと頭痛の診断をし、初回の注射をやってみて、その後は使用感とコストを天秤にかけて考えていく必要があります。