『朝、起きれない』というお子さんは、実は『起立性調節障害(きりつせい・ちょうせつ・しょうがい)』かもしれません。
起立性調節障害は、自律神経の障害で、朝起きられなかったり、頭痛が起こったりする子どもの病気です。
『朝起きられない』ため、一見すると『なまけもの』のように誤解されがちですが、本人は本当に辛くて起きられません。
『起立性調節障害』は、成長とともに次第に症状が良くなり、高校卒業くらいには、気にならない程度まで回復していることが多いです。
しかし、小学生の時に、高校卒業までがまんするわけにはいけません。
起立性調節障害は、適切な治療で改善が見込める病気です。
症状の改善のために、診断から治療、生活習慣の改善まで積極的な提案を受けられると良いです。
また、頭痛そのものがつらい場合は、頭痛の専門的な治療を受けることが望ましいです。
カロナール(アセトアミノフェン)の飲む回数が多いと、頭痛がクセになってしまう可能性があります。
【頭痛がクセにならないために】『カロナール』以外の子どもの頭痛の選択肢
『疲れがとれない状態』が半年以上続くと、『慢性疲労症候群(まんせい・ひろう・しょうこうぐん)』の可能性があります。 慢性疲労症候群は、人口の 0.3% に見られ、社会の生産性が落ちることでの経済損失が年間1.2兆円と試算されています。[…]
起立性調節障害(OD)とは│どういう病気?
『起立性調節障害(きりつせい・ちょうせつ・しょうがい)』とは、立ち上がった時に血液の流れが悪くなり、脳に血液が行き届きにくくなる病気です。
立ち上がった時の血圧は、主に自律神経が調節するために、起立性調節障害は自律神経失調症のうちのひとつとも解釈できます。
起立性調節障害は、子どもに多く、『朝起き上がれない』という症状が強く出るため、不登校になりがちです。
起立性調節障害は、頭痛を合併することも多く、正しい診断と治療が必要になります。
また、起立性調節障害は経過の良い病気であり、小学生・中学生のときに治療が上手くいかなくても、高校2-3年生ごろには9割程度が治ると言われています。
起立性調節障害は、英語で略して『OD(おーでぃー)』と言われます。
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起立性調節障害は小児・思春期の病気│小中学生に多い
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起立性調節障害(OD)は、子ども・思春期の病気です
起立性調節障害は、子どもに多いです。
特に思春期の女の子に多いです。
中高生では、『朝が辛くて学校に行くことができない』症状が目立ちます。
また、起立性調節障害を発病する割合は、小学生の5%、中学生の10%と言われています。
しかし、高校生を卒業する頃になると、自然と体調が良くなる、とも言われています。
起立性調節障害は、10-16歳の女の子に多い
起立性調節障害の好発年齢は、10-16歳で、女性は男性に比べて 1.5-2 倍多い.
嶺間, 子どもの心とからだ 日本小児心身医学会雑誌 28(3): 291-297, 2019
起立性調節障害は、小学生と中学生に多い
OD(起立性調節障害)の有病率は、小学生の5%、中学生の約10%とされている.
小穴, 小児科診療 80(suppl): 392-396, 2017
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【重要】起立性調節障害は、高校生を卒業する頃には自然と良くなる
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起立性調節障害は、高校卒業する頃には、症状が良くなることが多いです
起立性調節障害は、小学生や中学生で発症しても、年齢とともに自然と症状が回復していきます。
起立性調節障害は、高校卒業する頃には自然と良くなる
起立性調節障害は、一般的には高校2-3年生ごろには9割程度が治ると考えられている.
藤井, 子どもの心とからだ 日本小児心身医学会雑誌 29(1): 59-59, 2020
起立性調節障害の症状のチェックリスト│『朝起きられない』が多い
- 朝起きられない
- 午前中の方が調子が悪い
- 立ちくらみ
- めまい
- 頭痛(首から後頭部の痛み)
- 倦怠感・体がだるい
- 乗り物に酔いやすい
- お腹が痛くなることがある
- 顔が青白い
- イヤなことを聞くと、気持ちが悪くなりがち
- 入浴時に、気持ちが悪くなりがち
- 少し動くだけで息が切れる
- 体力がない
これらの症状の中でも、起立性調節障害と言えば、『朝起きられない』が1番目立つ症状になります。
また、『起立性調節障害に伴う頭痛』は、後述の『体位性頻脈症候群』が関連しているかもしれません。
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頭の後ろと首の後ろが痛くなる│起立性調節障害の頭痛
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起立性調節障害の頭痛は、首から後頭部が痛くなりやすいです
『脳への血流が下がった時の頭痛』は、首から後頭部にかけて痛くなりやすいです。
起立性調節障害の時の頭痛も、同じように、首から後頭部が痛くなりやすいです。
『脳血流低下』による頭痛の特徴
本頭痛は主に後頚部に生じ、時に後頭部まで広がる(コートハンガー分布)を特徴とする.
基本的に前頭側頭部に起きる片頭痛とは部位が異なる.
起立性低血圧の75%が頚部痛を報告した.
国際頭痛分類 第3版β版
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起立性調節障害に伴う頭痛│体位性頻脈と関連
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朝起きられず、頭痛もあれば、体位性頻脈症候群の可能性を疑います
起立性調節障害の症状(朝起きられない)に、頭痛を合併する場合は、『体位性頻脈』の診断基準に当てはまっている可能性があります。
その場合は、脈をゆっくりにする薬(プロプラノロール)を軸にした治療が効果的です。
頭痛と関連のあるODは、体位性頻脈
体位性頻脈症候群(POTS)は、頭痛との関連が深いと言われている.
小柳, 小児科診療 82(10): 1315-1320, 2019
起立性調節障害の原因
- 遺伝
- 生活習慣
- ウィルス感染後
- メンタル
起立性調節障害の原因は、生まれつきの場合と、育った生活習慣の影響、ウィルス感染後、メンタルの影響の4つがあります。
特に、かぜなどのウィルス感染が原因となる場合は比較的多いとされています。
また、『心臓が小さい』と、起立性調節障害や不登校が多いというデータもあります。
どれかひとつの原因というわけではなく、それぞれが組み合わさって起立性調節障害になった、という解釈です。
また、起立性調節障害は、本来的には体の病気ですが、自律神経の病気でもあるため、メンタルの影響を受けやすい病気でもあります。
起立性調節障害の原因には、遺伝と生活習慣の両方が関係する
起立性調節障害に影響を与える要因
- 遺伝
- 生活習慣
- 心理社会的要因
田中, 起立性調節障害, 診断と治療, 89, 83-87, 2001
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起立性調節障害は、メンタルの影響も受けやすい
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起立性調節障害は、自律神経の病気なので、メンタルの病気を受けやすいです
起立性調節障害は、『朝、体がしんどくて起きられない』、という体の症状が出ますが、メンタルも深く関わっています。
起立性調節障害は、メンタルの影響もある
起立性調節障害は本来身体疾患であるが、自律神経系疾患なので心理社会的要因の影響を受けやすい.
いじめや失敗体験を契機にしばしば発症、増悪する.
松島, 小児内科 51(10): 1669-1674, 2019
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睡眠不足と脱水があると、起立性調節障害を発症しやすい
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睡眠不足と脱水があると、起立性調節障害(特に体位性頻脈)を発症しやすいです
睡眠をきちんととり、水分をしっかり摂取することで、起立性調節障害の発症を予防できます。
多感な時期で、スマホも普及して、夜ふかしも多くなりがちですが、正しい生活習慣が大切です。
適切な睡眠時間確保のためにも、寝る2時間前からスマホのブルーライトを積極的にカットしましょう。
8時間以上寝て、脱水を避けることがPOTSの予防になる
体位性頻脈症候群(POTS)の発症リスク:
- 睡眠時間 8時間未満
- 脱水
Lin J: Risk factors for postural tachycardia syndrome in children and adolescents. PLoS One 9: e113625, 2014
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『心臓が小さい』と、起立性調節障害と不登校が多い│心臓のサイズは胸のレントゲンで判定
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心臓が小さいお子さんは、起立性調節障害になりやすいかもしれません
起立性調節障害のお子さんは、『心臓が小さい』という特徴があります。
日本の研究データでは、心臓が小さいお子さんは、元気がなく、不登校になりがち、と報告されています。
『心臓が小さい』ことは、胸のレントゲンを1枚撮ればわかります。
このレントゲンだけでは、起立性調節障害の診断はできませんが、診断の参考になるデータです。
心臓が小さいと、起立性調節障害と不登校が多い
起立性調節障害児のおける小心臓(CTR 0.42未満)の割合は、60.7%.
起立性調節障害児の小心臓群の特徴:
- 不登校が多い
- BMI が低い
- 安静時のエネルギー消費が少ない
- うつ傾向
藤田, 小児起立性調節障害における small heart に関する研究, 自律神経 49(4), 197-199, 2012
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『朝起きられない』は、『甘え』や『なまけもの』ではない│起立性調節障害
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朝起きられないのは、起立性調節障害の典型的な症状であり、『甘え』や『なまけもの』ではありません
起立性調節障害による症状は、いずれも誤解されやすいものばかりです。
つまり、『本人の意思の弱さの問題』と誤解されがちです。
しかし、実際は、血流の流れが悪いことによる症状ですので、きちんと原因のある症状なのです。
本人も『誤解された』という気持ちが強いと、それ以上の訴えをすることができず、どんどん自分の殻に閉じこもってしまいます。
ですので、まずご家族の方がはじめにご本人の訴えを信頼し、悪循環に陥らないように予防していくことが大切です。
起立性調節障害の分類
- 体位性頻脈症候群(POTS)
- 起立直後性低血圧
- 血管迷走神経性失神
- 遷延性起立性低血圧
起立性調節障害には、細かい分類が4つあります。
体位性頻脈症候群│最も多いタイプ
起立性調節障害のうち、1番多いのが、『体位性頻脈症候群(たいいせい・ひんみゃく・しょうこうぐん)』です。
『体位性頻脈症候群』は、英語で略して『POTS(ぽっつ)』と言われています。
体位性頻脈では、起立時の血圧は下がりませんが、立った時に脈が早くなり、ふらつき・倦怠感・頭痛などの症状が出ます。
体位性頻脈は、頭痛との関連が深く、『朝起きられない』と『頭痛』の両方の症状がある場合は、体位性頻脈かもしれません。
薬の治療では、メトリジンとともに、脈が上がりすぎないようにするプロプラノロールも大切となります。
発症には、ウィルス感染が関わっていると言われています。
体位性頻脈の診断基準
- 起立3分以後の心拍数 115回/分 以上
- または、心拍数増加 35回/分 以上
藤井, 小児科臨床 72(増刊号): 1298-1302, 2019
体位性頻脈の原因
体位性頻脈は、ウィルス感染をきっかけに発症する場合がある.
Olshansky B: Postural Orthostatic tachycardia syndrome (POTS): acritical assessment. Prog Cardiovas Dis 63: 263-270, 2020
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起立直後性低血圧│立った瞬間に血圧が下がる
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『起立直後性低血圧』は、立った瞬間に血圧が下がり、ふらつき・だるさなどの症状が出ます
『起立直後性低血圧(きりつちょくごせい・ていけつあつ)』では、立った瞬間に血圧が下がります。
血圧が下がることで、いろいろな症状が出ます。
寝た時の血圧と、立った直後の血圧の差を見ることで診断できます。
立った直後の血圧は、聴診による『血圧の音』を聞かないとわからないため、『起立性調節障害』の中でも、『起立直後性低血圧』は見逃しやすい病気です。
ただ、正しく診断がつかなくとも、他の起立性調節障害と同様に、薬の治療は、メトリジン(ミドドリン)が基本となります。
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血管迷走神経性失神│立っていて突然倒れる
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『血管迷走神経性失神』は、しばらく立っていると、突然倒れてしまいます
『血管迷走神経性失神(けっかん・めいそうしんけいせい・しっしん)』は、立っていると、突然、ストンと血圧が下がります。
血圧が下がることで、脳にいく血流が下がって、突然意識を失って倒れてしまいます。
この時、上の血圧(収縮期血圧)も、下の血圧(拡張期血圧)も、下がっています。
あまりにもひどいと、脈もゆっくり(徐脈)になっていたりします。
また、血管迷走神経性失神の前兆として、体位性頻脈が出る場合もあります。
血管迷走神経性失神と体位性頻脈の関係
体位性頻脈症候群は、血管迷走神経性失神の前駆症状の可能性がある.
光藤, 医学と薬学 73(11): 1383-1386, 2016
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遷延性起立性低血圧│徐々にふわーっとなる
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遷延性起立性低血圧は、立ってからしばらくすると徐々に血圧が下がってきます
『遷延性起立性低血圧(せんえんせい・きりつせい・ていけつあつ)』は、『立ち上がった直後は良いですが、しばらくするとじわじわ血圧が下がり、立っていられなくなる』病気です。
血管迷走神経性失神はストンと血圧が下がるのに対して、遷延性起立性低血圧はゆっくり血圧が下がります。
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起立性調節障害の新しい分類│脳血流低下型・高反応型│近赤外線で診断
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- 高反応型
- 脳血流低下型
- 起立時に収縮期血圧が 160 mmHg以上
- もしくは、収縮期血圧が起立前後で50mmHg以上上昇
脳血流を見る装置で、脳血流が低下した場合立った時に血圧が高い場合も、異常と判定され、起立性調節障害の『高反応型(こうはんのうがた)』と診断できます。
また、起立時の血圧・脈拍の変化がなくても、脳血流が低下していることを確認できれば、『脳血流低下型(のうけつりゅう・ていかがた)』と診断できます。
上記のように、従来の4つの分類に加えて、起立性調節障害(OD)は、新しい2つの分類も報告があります。
特に『脳血流低下型』は、『NIRS(にるす)』という、特殊な装置を使って診断しますが、まだ一般的ではなく、一部の医療機関でしか診断できません。
治療方針は従来のタイプと、だいたい似たような治療となります。
NIRS(近赤外線分光法)を使った『脳血流低下型』の診断│起立性調節障害の新しい分類
起立性調節障害の新しいサブタイプの診断には、脳循環を測定できる近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy :NIRS)などが必要となる.
現在は一部の医療機関でしか診断できない.
藤井, 小児科臨床 72(増刊号): 1298-1302, 2019
起立性調節障害の必要な検査
- 心電図
- 血液検査(貧血・ミネラル・代謝・ビタミン)
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検査は午前に行った方が良い
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起立性調節障害の血圧の検査は、午前に行った方が良いです
起立性調節障害の診断のための血圧検査は、午前9時から12時に行った方が、より正しい結果が出やすいです。
午後の検査は、『正常』と判定されやすい
起立性調節障害は、午後は検査結果が正常化することがある.
石崎, 外来小児科 19(3): 321-326, 2016
起立性調節障害の治療
起立性調節障害の治療には、薬を使う治療と、薬を使わない生活指導がありますが、両方の治療を行うと、より効果的です。
起立性調節障害の薬による治療
- 血圧が下がらないようにする薬
- 脈を落ち着かせる薬
- 漢方薬
起立性調節障害の治療薬は、立ち上がった時に、血圧と脈を安定化させる薬です。
薬の治療のコツは、『短期的に薬を変えたりやめたりしないこと』です。
薬の効くまで時間がかかるので、きちんと飲むようにして、本人・親・医療者の3者間で慎重に効果判定をします。
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薬の種類│医療者向け
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- ミドドリン(メトリジン)
- メチル硫酸アメジニウム(リズミック)
- プロプラノロール(インデラル)
- ビソプロロール(メインテート)
- エルゴタミン(クリアミン)
- 苓桂朮甘湯(りょうけい・じゅつ・かんとう)
- 半夏白朮天麻湯(はんげ・びゃくじゅつ・てんまとう)
- 当帰芍薬散(とうき・しゃくやくさん)
- 補中益気湯(ほちゅう・えっきとう)
- 小建中湯(しょうけん・ちゅうとう)
- 柴胡桂枝湯(さいこ・けいしとう)
- ラメルテオン(ロゼレム)
- フルドロコルチゾン(フロリネフ)
- ピリドスチグミン(メスチノン)
起立性調節障害で使われる薬は、だいたい決まっています。
それぞれを病気の状態や年齢に合わせて、組み合わせていく治療になります。
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血圧を下げないための治療│メトリジン・リズミック
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- まずはメトリジン
- 脈も上げたい場合は、リズミック
血圧を保つお薬も微妙に違いがあります。
メトリジンもリズミックもどちらも血圧が下がらないように安定させる薬ですが、リズミックの方が脈が少し上がります。
ですので、『体位性頻脈症候群』のように『脈が上がっていること』が症状の原因の時は、脈をさらに上げるような薬の使用を控えます。
全く逆効果の治療になってしまう場合もあるため、原因と病気の型をきちんと診断してから薬を選んでもらう方が良いです。
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メトリジンを飲むタイミング│『起きてすぐ』が良い
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メトリジンは、『朝食後』よりも『起床直後』に飲む方が良いです
メトリジンは、起きてすぐに飲む方が効率が良いです。
なぜなら、起立性調節障害は、そもそも朝ベッドから起きられない病気だからです。
また、午前中の方が調子が悪く、午後から夕方になって調子が上がってくる病気のため、1日のうちの前半の症状を改善できるように治療を受けることが大切です。
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メトリジンが効きにくくなってきた時の対処法│1週間以上の休薬
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メトリジンの効果が弱くなってきたと感じた場合は、1週間以上の休薬をします
メトリジンを長期に飲んでいて効果が弱くなってきたと感じる場合は、休薬をします。
肝臓や腎臓を休めることで、また薬が効く体に戻すようにします。
メトリジン(ミドドリン)に慣れてしまった場合は休薬
ミドドリンの長期使用により効果が減弱する場合には、1週間以上の休薬によって効果が回復すると指摘されている.
石崎, 外来小児科 19(3): 321-326, 2016
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体位性頻脈の治療は、喘息に注意│プロプラノロールと喘息は相性が良くない
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プロプラノロールは、喘息の方は飲まない方が良いです
体位性頻脈(POTS)の治療は、プロプラノロールが主役となります。
しかし、プロプラノロールは気管支を縮める作用があるため、気管支喘息を悪化させます。
ですので、体位性頻脈の場合は、気管支喘息があると治療の選択肢が狭まり、やや不利な状況で治療を受けなければいけません。
喘息の人はプロプラノロールを飲んではいけない
プロプラノロールの禁忌:
気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者[気管支を収縮し、喘息症状が誘発又は悪化するおそれがある]
プロプラノロールの添付文書より抜粋
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体位性頻脈の治療は、頭痛にも注意│プロプラノロールとリザトリプタンは相性が良くない
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プロプラノロールは、リザトリプタン(片頭痛の治療薬)と合わせて飲まない方が良いです
プロプラノロールと、片頭痛の特効薬のリザトリプタンは、同時に飲んではいけません。
リザトリプタンの血液中の濃度が高まってしまい、リザトリプタンの副作用が出やすくなるからです。
体位性頻脈(POTS)は、頭痛も同時に起こりやすい病気です。
ここで、頭痛の治療薬として、リザトリプタンを使ってしまうと、体位性頻脈治療としてのプロプラノロールが使えなくなってしまいます。
ですので、プロプラノロールを軸として、頭痛治療薬をリザトリプタン以外のトリプタンを処方してもらうことが大切です。
プロプラノロールとリザトリプタンを同時に飲んではいけない
プロプラノロールの禁忌:
リザトリプタン安息香酸塩を投与中の患者.
プロプラノロールの添付文書より抜粋
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漢方薬を選ぶコツ│起立性調節障害の漢方治療
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- メンタルが弱い場合は、『柴胡桂枝湯』
- 立ちくらみ気味の時は、『半夏白朮天麻湯』
- 胃腸が弱い場合は、『小建中湯』
漢方は、そのお子さんの特性に合わせて選択されます。
どの漢方がしっかり効くのかは使ってみないとわかりませんが、『こういう場合はこれが良いことが多い』という一般的な経験則があります。
お医者さんにきちんと話を聞いてもらい、合いそうな漢方を選んでもらえるようにしましょう。
起立性調節障害の漢方薬の選択
- 精神身体型には、柴胡桂枝湯
- 循環虚弱型には、半夏白朮天麻湯
- 胃腸虚弱型には、小建中湯
- 無効な場合は、補中益気湯・苓桂朮甘湯
青山, 小児科診療 73: 435-437, 2010
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アメリカのPOTS治療薬│ステロイド・重症筋無力症の薬を使用
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- フルドロコルチゾン(フロリネフ)
- ピリドスチグミン(メスチノン)
米国でも、メトリジンなどの標準的な治療薬が、まずはじめに使われます。
しかし、中には重症の起立性調節障害・体位性頻脈症候群のお子さんもいるため、その場合は特殊な治療薬が使われます。
米国の学会では、ステロイド薬(フロリネフ)や、重症筋無力症という難病の薬(メスチノン)が、体位性頻脈の優先順位が高い治療となっています。
米国での体位性頻脈の治療薬はステロイドもある
It seems reasonable to treat patients with POTS with fludrocortisone or pyridostigmine.
Robert S, 2015 Heart Rhythm Society Expert Consensus Statement on the Diagnosis and Treatment of Postural Tachycardia Syndrome, Inappropriate Sinus Tachycardia, and Vasovagal Syncope, Practice guideline Vol 12, Issue 6, E41-E63, 2015
起立性調節障害の治し方│自分で治す方法│薬が効かない場合
- ゆっくり立つ、急に立たない
- 日中は体を横ににしない
- 早寝早起きをする
- 15分程度散歩をする
- 塩分を多めに摂取する(1日10-12g)
- 水分を摂取する(1日1.5-2L)
- 塩分を摂取する
- 硬めのストッキングを履く
- 学校や担任の先生に病気のことを伝えておく
- 診断書の発行
起立性調節障害を薬を使わず自分で治す方法です。
生活指導の中でも、『立ち方の訓練』は重要なポイントです。
『頭を下げたまま、体を起こすこと』がポイントです。
また、だるさのため日中に横になってしまうと余計に起きられません。
日中にしっかりと体を動かして活動して、体をどんどん慣らしていくことが大切です。
また、周囲の理解を得にくい場合は、『診断書の発行』も有効です。
お子さんの病状の周知をはかり、サポート体制の構築をしていくことも大切です。
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『遅刻してでも学校へ行くこと』も、治療のひとつ
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遅刻しても、学校へ登校して活動量を上げることは、大切な治療です
朝起きられない起立性調節障害のお子さんも、『遅刻して登校すること』は、大切な治療のひとつです。
ただ、子ども社会はデリケートな面もあり、『遅刻すると学校へ行きづらい』という心理的なストレスもあります。
周りの大人は、『起立性調節障害という病気を知ること』と、『学校へ行きやすい環境を作る』というサポートをして、本人がなるべく学校生活を快適に過ごせるように配慮して上げる必要があります。
お子さんが『自分の体調について周りの人が理解してくれない』と感じて、体調がさらに悪くなる悪循環に陥ることがないように支えてあげることが大切です。
お子さんの病気が誤解されないような環境づくりが大切
起立性調節障害では朝起き不良のため遅刻や欠席が増えることが多い.
遅刻しながら登校することは治療として非常に重要であるが、子どもは周囲の評価を気にするため、同意を得られないことが多い.
藤井, 小児科臨床 72(増刊号): 1298-1302, 2019
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『寝る時間』が遅くならないように│入眠時間
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起立性調節障害は、午後から元気になるため、寝る時間が遅くなりがちです
起立性調節障害は、午前に調子が良くない分、午後から元気になって活動します。
ですので、『入眠時間』が遅くなりがちで、生活リズムをずれこんでしまいます。
しかし、朝起きるべき時間は変わらないため、睡眠時間が不足してしまい、結果として悪循環となってしまいます。
入眠時間が遅くなりがちな場合は、『薬を使わない治療』だけにこだわらず、『自然な眠りを誘う薬』であるラメルテオン(ロゼレム)を処方してもらった方が、総合的には良いのかもしれません。
起立性調節障害は、寝る時間が遅くなりがち
起立性調節障害は、日内変動があり、午後から夜間にかけて体調がよくなるので、入眠時間が遅くなりがちであるため、入眠時間に気をつける.
小穴, 小児科診療 80(suppl): 392-396, 2017
起立性調節障害Q&A
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起立性調節障害と間違える怖い病気は?│インスリノーマ
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『起立性調節障害と診断されていたインスリノーマ』の症例報告があります
『インスリノーマ』は、血糖値を下げる『インスリン』をじゃぶじゃぶ出す腫瘍です。
この『インスリノーマ』という腫瘍が体の中にあると、ずっと低血糖の状態が続いてしまい、常にふらふらしてしまいます。
医療の業界では、『起立性調節障害と診断され治療されていたが、実はインスリノーマという腫瘍だった』、という報告があります。
起立性調節障害と診断されていた若年発症インスリノーマの1例
- 13歳より朝の起床困難、頻回の頭痛があった女性
- 起立性調節障害と診断され、不登校となる
- 家族が朝起こしに行くと、大量の発汗あり、意識障害の状態
- 救急搬送、精査の結果、インスリノーマの診断となった
鈴木, 日本内分泌学会雑誌 95(1): 466-466, 2019
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子どもが意識がなくなる原因は?│自律神経が最も多い
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子どもの意識消失の原因は、『自律神経の一時的な異常』が1番多い
『子どもが意識を失ったんです』と来院される場合、その原因はほとんどが、『自律神経の一時的な異常』です。
しかし、まれに心臓が原因のこともあり、注意が必要です。
心臓の不整脈が疑われる場合は、循環器の専門の先生に受診しましょう。
子どもの意識消失の原因は、自律神経失調症
小児の意識消失の73%は自律神経調節障害によるものであり、心原性失神は3%に過ぎない.
小川, 日本小児循環器学会雑誌 35(suppl): 597-598, 2019
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発達障害で朝起きづらくなりますか?│発達障害と起立性調節障害は合併しやすい
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起立性調節障害と発達障害が一緒にある子は多いです
起立性調節障害の約1割に、発達障害を合併していることが知られています。
後述のように、起きられない原因が、発達障害の薬の副作用なのか、病気の影響なのか判断が難しい場合が多いため、一度、主治医の先生に相談しましょう。
発達障害と起立性調節障害は合併しやすい
起立性調節障害132例中、18例(14%)で発達障害が併存した.
犬塚, 起立性調節障害132例における不登校傾向を示す要因, 日児誌 119, 977-984, 2015
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発達障害の薬で起立性調節障害になりますか?│インチュニブ・ストラテラの副作用
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発達障害の薬で、朝が弱くなる可能性はあります
発達障害で、インチュニブ(グアンファシン)という薬を飲んでいる場合は、副作用で『立った時に血圧が下がる』という『起立性低血圧』が出ることがあります。
これは、インチュニブが血管を広げるという作用があるために起こる副作用です。
また、ストラテラ(アトモキセチン)で、脈が遅くなり、体位性頻脈が悪化することもあります。
副作用なのか、病気の影響なのか判断が難しい場合が多いため、一度、主治医の先生に相談しましょう。
インチュニブは、低血圧の副作用あり
高度な低血圧、徐脈があらわれ、失神に至る場合がある.
インチュニブの添付文書 より抜粋
ストラテラは、体位性頻脈を悪化させる
発達障害(ADHD)の治療薬であるアトモキセチンは、体位性頻脈の徐脈を悪化させる.
Green EA: Effects of norepinephrine reuptake inhibition on postural tachycardia syndrome. J Am Heart Assoc 2(5), eOOO395, 2013
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『朝がつらい、起きられない』のは、本当はメンタル的なものですか?│誤解されやすいポイント
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誤解されがちですが、本人は、本当に朝つらくて起きられません
起立性調節障害は、『血流が良くない病気』ですので、メンタルが弱くて朝起きられないわけではありません。
これはよく誤解されるポイントであり、本人は疑われるととても傷つきます。
ストレスが病状を悪化させる病気ですので、複数回の通院を通じて信頼関係ができた時に、心理的なストレスについて本人にお話を聞くのが良いです。
朝起きられないのは、『本人のメンタルの問題』と誤解されやすい
初期治療で心理的なストレスを無理に聞き出そうとすることは、「精神的な症状と思われた」「体の調子が悪くて困っているのに理解されていない」という誤解を招くことがある.
藤井, 小児科臨床 72(増刊号): 1298-1302, 2019
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脳脊髄液減少症と起立性調節障害の区別はどうやってしますか?│大人の立ち上がった時の頭痛
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『立った時の頭痛』が、午後から夕方に強い場合は、『脳脊髄液減少症』を疑います
『起立性調節障害』と『脳脊髄液減少症』は、どちらも『立ち上がった時の頭痛』が出るため、区別がつきにくい病気です。
起立性調節障害の頭痛は、起床直後から頭痛がしっかりありますが、脳脊髄液減少症では起床直後よりも午後から夕方にかけて頭痛症状が強く出ます。
これらの症状の微妙な違いがわかりやすい『発症2週間以内』が、それぞれの病気を区別しやすい期間です。
体位性頻脈と発症2週間以内の脳脊髄液減少症の症状の違い
体位性頻脈症候群 脳脊髄液減少症 頭痛発症までの時間 起立直後 起立後10分以上してから 光過敏 なし あり 耳鳴り なし あり 鎮痛薬 無効 無効 光藤, 医学と薬学 73(11): 1383-1386, 2016
脳脊髄液減少症と起立性調節障害の区別は、はじめの2週間に行う
脳脊髄液減少症と起立性調節障害の鑑別には発症早期、特に発症2週間以内の頭痛の性状の聴取が極めて有用である.
光藤, 治療93: 1595-1600, 2011
起立性頭痛は体位性頻脈が多い
髄液漏出のない起立性頭痛は、体位性頻脈が多い
Mokri B, Orthostatic headaches without CSF leak in postural tachycardia syndrome. Neurology, 61: 980-982, 2003