『プロラクチン高い』と言われたら、原因は、①脳腫瘍(プロラクチノーマ)、②薬の副作用(特にスルピリド・ドグマチール)、③甲状腺の異常、のどれかである確率が高いです。
もし、それらが原因でない時は、まれな病気を考えていきます。
脳腫瘍(プロラクチノーマ)かどうかは、脳のMRIでわかります。
薬でプロラクチンが一時的に上がることも多いです。
甲状腺ホルモンの異常で、プロラクチンが高くなることもあります。
- 不妊
- 生理がこなくなる
- 母乳が出る
プロラクチンが高くなると、生理がこなくなったり、母乳が出たりして気づきます。
プロラクチンが高いと不妊になるため、不妊治療中に判明するひともいます。
プロラクチンが高いときの原因│診断には脳のMRIが必須
- 脳腫瘍(プロラクチノーマ)
- 薬の副作用
- 甲状腺ホルモンの異常
- その他
高プロラクチン血症の原因はさまざまで、プロラクチノーマ(34%)が最も多く、次に薬の副作用(8%)、原発性甲状腺機能低下症(5%)、と続きます。
原因1. 脳腫瘍(プロラクチノーマ)
プロラクチノーマは脳の下垂体にできる良性の腫瘍です。
この腫瘍がプロラクチンを血液中に大量に放出します。
20-30歳の女性で見つかりますが、男性でも時々見つかります。
プロラクチノーマは良性腫瘍であるため、がんなどのような命に関わる悪性のものではありません。
ただ、大きくなることもあり、腫瘍が神経を圧迫するようになると、『視野の外側が狭くなる』という症状が出てきます。
プロラクチノーマには、サイズが大きい『マクロ・アデノーマ』と、サイズが小さい『マイクロ・アデノーマ』の2つがあります。
マイクロ・アデノーマは、とても小さいため、1回のMRI検査では見つからないこともあります。
どうしてもマイクロ・アデノーマを探さなければいけない状況となれば、造影剤を使ったMRIを行うこととなります。
女性ではMRIでわからないくらい小さいマイクロ・アデノーマが多く、男性では10ミリ以上のマクロ・アデノーマ(大型)が多いです。
- プロラクチノーマができる原因
- プロラクチノーマの原因は今まで不明でしたが、2020年にSF3B1(splicing factor 3 subunit B1)遺伝子が、プロラクチノーマの約2割程度で見つかりました。
原因2. 薬の副作用
- スルピリド
・ドグマチール - 精神病薬
・リスペリドン
・ハロペリドール
・クロルプロマジン
・クロザピン - メトクロプラミド
・プリンペラン - メチルドパ
- イミプラミン
・トフラニール - アミトリプチリン
・トリプタノール - ベラパミル
薬の影響でプロラクチンが上がることもあります。
スルピリド(ドグマチール)という薬が原因のことが多いです。
これらの薬は、食欲がない、元気がない、という理由で処方されることが多いです。
元気がないので、薬を処方されて、突然母乳が出始めたり、生理が不整になったりして、余計に体調を崩して不安になる、という方が多いです。
いずれも良い薬ですが、まれに副作用が起こるため、処方する医療者側がよく知っておく必要があります。
原因3. 甲状腺の異常
甲状腺のホルモンが少なくなっていると、プロラクチンが高くなります。
試しにTRH注射を打ってプロラクチンの値を検査すると、診断できます。
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TRH注射による診断
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TRH注射を打つと、プロラクチンの値が2倍以上に上がりますが、プロラクチノーマでは、2倍以下の反応となります
TRH 200μg(TRH注 0.5mg)をゆっくり(2分程度かけて)静注し,前値,15分,30分,60分でPRL(およびTSH、成長ホルモン〕を測定する。
プロラクチノーマ以外では,基礎値の2倍以上の増加をみるが,プロラクチノーマでは増加反応は2倍以下に止まる。
生理不順の人の20%は、原因がある
生理が不順な女性のうち、20%はプロラクチンが高いというデータがあります1。
生理不順の人は、高プロラクチン血症の原因を探っていく必要があります。
プロラクチン値で、原因を予想する
- 20 ng/mL 未満 → 正常
- 100 ng/mL 以上 → 薬の副作用または脳腫瘍(マイクロ・アデノーマ)
- 250 ng/mL 以上 → プロラクチノーマ(マクロ・アデノーマ)
プロラクチンの値は、健康な女の人で、20 ng/mL程度です。
ストレスや食事の影響があったとしても、40 ng/mL を超えることはありません。
3桁あれば、母乳が出たり、生理が不順になったりする症状が出ます。
250 ng/mL 以上であれば、薬の副作用である可能性は低く、画像でわかるくらいの大きさのプロラクチノーマ(マクロ・アデノーマ)があることが多いです。
プロラクチンの値が大きければ大きい程、腫瘍は大きいです。
妊娠中であれば、300 ng/mLなどの異常な高値になったりします。
1番悩ましいのは、プロラクチン値が 100 ng/mL 前後 のときです。
MRIでわからないくらいの小さいマイクロ・アデノーマがあるのか、その他の病気があるのか、わかりません。
この場合は、造影MRIを行ったり、試しにカベルゴリン(カバサール)を飲んでみたりします。
同時に甲状腺機能検査も並行して行っていきます。
参考│
・ lrene S : Prevalance of hyperprolactinemia and abnormal magnetic resonance imaging findings in a population with infertility. FertiL Steri1. 94:1159-1162, 2010
高プロラクチン血症の治療
高プロラクチン血症の原因はさまざまであり、その原因となっている病気の治療を優先して行います。
プロラクチノーマの治療
カバサール(カベルゴリン)という薬を飲みます。週1回飲めば良い治療となります。
妊娠したらただちにカバサールを中止します。
特に手術は必要としないことが多いです。
カバサールの量と副作用
カバサールは、プロラクチノーマの治療としては、週1回 0.25~1mg を飲みます。
プロラクチン値は、カバサールを週1mg を飲めば60%。週6~9mgを飲めば99%が正常に戻ります。
副作用は、めまい・立ちくらみ(起立性低血圧)が多いですが、2~4週間程度で身体が慣れてきます。
カバサールの稀な副作用で、ギャンブル依存になったり、性欲が止まらなくなった、という報告がありますが、数は少ないものです。
カバサール自体は、高齢者のパーキンソン病の治療でも使われ、その場合、1日6mgを飲みます。
ですので、プロラクチノーマの若い人に、週1回1mgを使う程度であれば、副作用は起こりにくいものと考えれます。
参考│
・Ono M: Prospective study of high-dose cabergoline treatment of prolactinomas in 150 patients. J Clin Endocrinol Metab 2008; 93: 4721-4727
妊娠希望の場合のプロラクチノーマ治療のポイント
妊娠中は、プロラクチノーマが大きくなります。
プロラクチノーマは眼の神経(視神経)が近くにあるので、妊娠するまでに腫瘍を小さくしておかないと、妊娠中に腫瘍が増大して眼が見えなくなることがあります。
ですので、プロラクチノーマ持ちの女性は、妊娠前にカバサールを飲んでプロラクチノーマのサイズを 10ミリ以下に縮めておいてから妊娠する必要があります。
腫瘍サイズを 10ミリ以下にしておけば、妊娠中に腫瘍が大きくなっても、視神経に接触することなく、安全に妊娠できます。
妊娠したことがわかった時点(妊娠4-5週の時点)で、カバサールを中止します。
この方法で安全に妊娠・出産できたという研究が報告されています。
参考│
・Ono M:Individualized high-dose cabergoline therapy for hyper-prolactinemic infertility in patients with micro- and macroprolactinomas. J Clin Endocrinol Metab 2010; 95: 2672-2679