【肝臓が悪いと脳に障害】肝性脳症が起こるアンモニア値と治療│ミニマル肝性脳症

 

肝性脳症(かんせい・のうしょう)とは

肝性脳症(かんせい・のうしょう)とは、肝臓が悪いために、肝臓で分解されるべき有害物質(アンモニア)が、体内に溜まってしまう病気です。

体内に蓄積されたアンモニアは、脳を攻撃し、さまざまな症状を出します。

手のふるえが1番多い症状ですが、幻覚などが見える場合もあります。

治療は、『たんぱく質を減らした食事』や、点滴治療になります。

 

肝性脳症の原因

  1. 肝臓が悪すぎる
  2. 肝臓まわりの血管がおかしい

肝臓が極端に悪いと、アンモニアなどの有毒な物質が、体内や脳に溜まって、肝性脳症が起こります。

肝性脳症を起こす原因は、肝臓の機能が極端に悪い場合か、肝臓まわりの血管に問題がある場合です。

肝性脳症の分類は3つ

 

  • A型 ⇛ 急性肝不全が原因
  • B型 ⇛ 血管の異常が原因
  • C型 ⇛ 肝硬変やミニマル肝性脳症

A型は、急に肝臓が悪くなることが原因で起こる肝性脳症です。

B型は、血管の異常(シャント)に対して、カテーテル手術が必要になる場合があります。

C型は、慢性的にもともとある肝硬変が原因で起こる肝性脳症です。

肝硬変(かんこうへん)が原因の肝性脳症

肝硬変と診断されると、5年後に肝性脳症になる人が多い

アメリカとヨーロッパの肝臓学会の報告では、肝硬変(かんこうへん)と診断されると、その後、肝硬変になるリスクが高いとされています。

肝硬変と肝性脳症:

肝硬変と診断されると、5年後には 5-25% の人が肝性脳症になる.

Vilstrup H, Hepatic encephalopathy in chronic liver disease: Hepatology 60: 715-735, 2014

アンモニア値が高くない肝性脳症

アンモニア値の高くないのに、意識が悪くなることがあります
アンモニア値は高くないのに、意識がうとうとしてしまったり、錯乱したり、幻覚が見えたりすることがあります。
『アンモニア値が高くない肝性脳症』のことを、『ミニマル肝性脳症(みにまる・かんせい・のうしょう)』と言います。
ミニマル肝性脳症は、ミトコンドリア内でカルニチンが欠乏した状態となるために引き起こされると言われています。

ミニマル肝性脳症とは(医療者向け)

ミニマル肝性脳症は、症状の出かかっている肝性脳症のことです

『ミニマル肝性脳症』とは、『潜在性肝性脳症』のことです。

意識は一見、良いように見えても、しっかり検査すると軽い異常が見られる状態のことです。

ミニマル肝性脳症とは:

ミニマル肝性脳症とは、意識状態が一見正常と判断される例において、定量的精神神経機能検査を行うと少なからず異常を認める.

肝性脳症の昏睡1度からゼロの間に存在する病態を意味する.

Butterworth RF, J Hepatol, 39(2): 278-285, 2003

肝硬変におけるミニマル肝性脳症は、予後不良因子となる.

Gastroenterology, 1483-1489, 2015

ミニマル肝性脳症の治療:

L-カルニチンは、ミニマル肝性脳症を改善する.

World J Gastroenterol, 7197-7202, 2005

猪瀬型肝性脳症とは(医師向け)

門脈-大循環シャントによる高アンモニア血症を『猪瀬型肝性脳症』と言います

猪瀬型肝性脳症は、門脈と大循環がつながってしまうことで起こる肝性脳症です。

シャントを治療しないと、肝性脳症が繰り返されます。

シャント治療は、BRTO(バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術)が、低侵襲かつ有効です。

猪瀬型肝性脳症は、海外でも報告あり:

1954年 Portal-systemic encephalopathyとして報告された.

Sherlock S, Lancet 4: 453-457, 1954

猪瀬型肝性脳症へのBRTO治療:

BRTOは、門脈下大静脈シャントに対して侵襲性の少ない極めて有効な治療選択と考えられる.

日本農村医学会雑誌 69(3): 255-255, 2020

 

肝性脳症の症状

  1. 昼夜逆転
  2. 日中、よく寝ている
  3. 躁うつ状態
  4. 元気がない
  5. 異常行動
  6. 行儀が良くない

肝性脳症は、ひどいと昏睡になります。

昏睡になる前は、様々な症状が出ます。

 

肝性脳症の診断・検査

  1. 血液検査
  2. 脳のMRI
  3. お腹のCT
  4. 脳波
  5. 特殊な検査(NIRS:ニルス)

肝性脳症を診断するには、血液検査は必須です。

また、脳のMRIを行って、他の病気を除外することが必要になります。

  1. ビタミン不足
  2. てんかん
  3. 糖尿病
  4. 薬の副作用
  5. ミネラルの異常
  6. 脳の病気
  7. 認知症

肝性脳症の脳MRIのポイント(医師向け)

脳MRIで淡蒼球のマンガンの沈着を見る

肝性脳症では、脳のMRIで淡蒼球にマンガンが沈着します。

脳のMRIでは、T1強調画像で、高信号域となります。

マンガン沈着:

頭部MRI検査のT1強調画像での大脳基底核淡蒼球の高信号(マンガン沈着)の存在を確認することも有用である.

土谷, 肝臓クリニカルアップデート 4(1): 31-36, 2018.

てんかんの合併に注意(医師向け)

肝性脳症は、てんかん発作の合併が意外と多い

肝性脳症は、てんかんを合併していることも多いです。

けいれんしていなくても、てんかん発作はあり得ます。

肝性脳症を疑えば、脳波検査も合せて行うことがベストです。

しかし、実際は脳波検査は解釈に時間がかかるため、脳波の結果を待たずに治療を開始することも多いです。

肝性脳症は、てんかんを合併しやすい:

肝性脳症では、てんかん発作の合併が 2-33% ある.

Prabhakar S, Management of agitation and convulsions in hepatic encephalopathy. Indian J Gastroenterol, 22(Suppl.2) : S54-S58, 2003

 

 

肝性脳症の治療法

肝性脳症の治療法は、アンモニアを下げる治療と、精神症状の治療の2つの治療を組み合わせる必要があります。

アンモニアを下げる治療は、下剤や、特殊な砂糖類、特殊なアミノ酸、特殊な抗生剤、を組み合わせます。

精神症状(焦り、震え、興奮、幻覚など)に対しては、しっかり脳の興奮を抑えるしっかりした薬を使っていくことになります。

  1. アミノ酸(分岐鎖)
  2. 糖質(二糖類)
  3. 抗生物質
  4. カルニチン
  5. 亜鉛
  1. ハロペリドール(セレネース)
  2. リスペリドン(リスパダール)
  3. クエチアピン(セロクエル)
  1. カテーテル手術
  2. 肝移植の手術

アンモニアを下げる治療(医師向け)

  • アミノバクト
  • リーバクト(飲みやすい)
  • アミノレバンEN(飲みにくい)
  • ピアーレシロップ
  • ラクツロースシロップ
  • ポルトラック
  • リファキシミン(リフキシマ)
  • カナマイシンカプセル
  • 硫酸ポリミキシンB錠
  • エルカルチン®FF内用液10%分包5mL、10mL

BCAA製剤が肝性脳症の基本治療になります。

リーバクトは飲みやすくておすすめです。

二糖類と、抗菌薬は、アンモニア産生を抑制します。

抗生剤は、新しい薬(リフキシマ)が効果的ですが、専門の病院でない限り、薬局には置いてないかもしれません。

アミノ酸

肝性脳症の治療は、分岐鎖アミノ酸(BCAA)が欠かせません

アミノ酸の中でも、分岐鎖アミノ酸(BCAA)という特殊なアミノ酸が、肝性脳症の治療薬として使わています。

ただし、急激な肝不全では、分岐鎖アミノ酸であっても窒素(アンモニア)が溜まることになるため、使えません。

緩やかに発症する肝性脳症や、ご飯がまだ食べられる程度の割と元気な肝性脳症の方の治療で使われます。

二糖類

飲み薬と浣腸があります

二糖類には、ラクツロースとラクチトールの2つがあります。

二糖類は、腸管内のアンモニアの産生と吸収を抑えて、全体のアンモニア値を下げます。

二糖類は、肝硬変の治療ガイドラインでも、最も良い治療という位置づけです。

抗生剤

抗生剤(リファキシミン)は、腸内でのアンモニア産生を抑えます
リファキシミン(リフキシマ)は、アンモニアを産生する腸内細菌をやっつけて、アンモニアを作らせなくします。
日本の肝性脳症のガイドラインでも最高ランクの治療とされています。

カルニチン

従来型の肝性脳症の治療に、さらにカルニチン製剤を上乗せする

今まで通りの肝性脳症の治療をしても、入院を繰り返す場合は、カルニチン製剤をさらに足すと結果が良いことが知られています。

難治性の肝性脳症にカルニチンの上乗せ効果あり:

既存治療にカルニチン製剤の上乗せ投与によりNH3値と自覚症状が改善し、脳症による再入院回数が有意差をもって減少した.

日本消化器病学会雑誌 117(suppl-1): A367-A367, 2020

精神病の薬

てんかんを合併した肝性脳症に、精神病の薬を使うと、てんかん発作が出やすくなる場合がある
精神病の薬は、焦り感(焦燥感:しょうそうかん)が強い場合は、特に有効です。
ただ、肝性脳症の中には、てんかんを合併していることもあり、その場合は、てんかん薬で治療した方が良いとされています。
肝性脳症の治療では、ベンゾジアゼピン系は避けるべきである.
ハロペリドールを少量から始めることがより安全な選択肢である.
Prabhakar S, Management of agitation and convulsions in hepatic encephalopathy. Indian J Gastroenterol, 22(Suppl.2):S54-S58, 2003

焦燥感が強い場合は、ハロペリドールによる鎮静が必要.

管理困難な場合は、集中治療室でのプロポフォール管理が望ましい.

Amodio P: Hepatic encephalopathy: Diagnosis and management. Liver Int, 38: 966-975, 2018

手術

 

  1. カテーテル手術
  2. 肝移植の手術

血管異常がある肝性脳症では、カテーテル手術をすることがあります。

門脈という血管に詰めものをします。

この治療は保険適応外の治療となります。

また、65歳以上であれば、肝臓の移植手術の可能性もあります。

肝臓にがんがある場合は、基準を満たせば保険適応の治療となります。

 

肝性脳症Q&A

タンパク質制限をする肝性脳症もありますか?

ひどい劇症肝炎は、BCAAすら控えたほうが良いです
急激なひどい肝炎になると、少しのタンパク質でも、アンモニアなどの有害物質が増えるもとになります。
ですので、『劇症肝炎』と言われたら、良質なアミノ酸でもダメ、と理解しましょう。
急性肝不全には、BCAA禁忌:
劇症肝炎などの急性肝不全による肝性脳症では、むしろ窒素不可となり肝性脳症を悪化させる可能性がある.
急性期のBCAA投与も禁忌である.
土谷, 肝臓クリニカルアップデート 4(1): 31-36, 2018.

PT60%以上で意識が改善したらタンパク量を制限しつつBCAAを開始する.

肝臓専門医テキスト改訂第2版, 2016