『耳の後ろが痛い』と言われた場合は、『後頭神経痛』の可能性があります。
しかし、重症化して後遺症が残りやすく、見逃してはいけないのは、『帯状疱疹』です。
顔面や頭皮にできる帯状疱疹は、ブツブツした皮疹が出ない事も多いです。
帯状疱疹は、見逃して治療が遅れてしまうと、『強い痛み』を後遺症として残す場合があります。
痛みの後遺症を残さないためにも、発症して速やかにこの病気を疑って治療を開始することが大切です。
『首筋から後頭部が痛い』で、1番怖い病気は『椎骨動脈解離(ついこつ・どうみゃく・かいり)』です。 この病気は、『くも膜下出血になる直前』の状態です。 くも膜下出血は、頭の病気ですが、くも膜下出血を発病する少し前に『肩や首筋の後ろ[…]
結論:耳の後ろが痛いときに見逃してはいけない病気は『帯状疱疹』
『耳の後ろが痛い』とき、見逃してはいけない病気は、帯状疱疹(たいじょう・ほうしん)です。
帯状疱疹の治療が遅れると、『帯状疱疹後神経痛(たいじょうほうしん・ご・しんけいつう)』という、痛みの後遺症が残る場合があります。
この痛みは、しばしば永続的に残ることもあります。
帯状疱疹を見逃さないようにするには、血液検査(ペア血清)を実施することもあります。
ウィルス感染症の診断方法で、いろいろな種類があります。 新型コロナウィルス感染症の流行で、ウィルスの遺伝子があるかどうかを直接調べる『PCR検査』が有名になりました。 PCR検査は精密で確実な検査ですが、すべてのウィルス感染症で[…]
帯状疱疹の後遺症が残る割合は1-3割
帯状庖疹から、帯状疱疹後神経痛に移行する割合は、全体で9~34%と報告されています
渡邊 恵介; 臨床と研究; 97巻2号, 39-44, 2020
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『耳の後ろが痛い』時に考える病気
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『脳と血管の病気』との見分け方のポイント
『耳の後ろが痛い=後頭神経痛』だけではない
『耳の後ろが痛い』とき、原因は、片頭痛(偏頭痛)や、緊張型頭痛(肩こり頭痛)のような一般的な頭痛症のことが多いです。
しかし、中には、後頭神経痛をはじめとする『神経痛』が原因のこともあります。
この『耳の後ろの神経痛』は、疲れ・ストレス、頚椎の病気、などの他に、帯状疱疹を含む炎症でも引き起こされます。
耳の後ろが痛いとき、耳自体や、あごの関節の病気のこともある
耳の後ろが痛いとき、耳の病気(外耳炎・中耳炎・腫瘍)が波及したり、あごの関節に問題があったりします。
耳の病気のときは、『耳の後ろ』だけでなく、耳自体も痛くなることが多いです。
その場合は、耳鼻科受診をお勧めします。
また、虫歯や、あごの関節が傷む『顎関節症(がく・かんせつしょう)』という病気があります。
その場合は、歯医者さんや、口腔外科の受診をお勧めします。
顎関節症(がく・かんせつしょう)は、口を開けた時にアゴがカクっとなる病気です。 症状と画像検査を用いて、口腔外科で診断・治療が行われます。 顎関節症の診断 症状で診断がつくのは、顎関節症の全体の8割程度です […]
耳鼻科・口腔外科の受診が必要な場合もある
耳痛において、耳疾患が原因となる場合は細菌や真菌、ウイルスによる炎症性のものが多い.
そのほかに、耳以外の周辺臓器の炎症によるもの、他部位からの関連痛(口腔や咽頭の炎症や腫瘍性病変)によるものもある.
日耳鼻 117:1431-1437, 2014
『耳の後ろが痛い』病気の頻度(確率)を記載した医学論文は意外と無い
『耳の後ろが痛いときに、どの病気が多いか?』というテーマに焦点を絞った医学論文は、検索したところ見当たりませんでした。
ですので、『耳の後ろが痛い』という訴えに対して、医師は自身の経験を元に診察していく事が多いのだと思います。
耳の後ろの痛みの神経は、頚椎(首)から出ている
耳の後ろの痛みを感じる神経は、首から出ています。
つまり、『耳の後ろが痛い』ときには、頚椎を調べることも大切です。
そして、後述のように、耳の後ろに帯状疱疹が発症すると、神経の線維を伝って、首の神経まで及び、脊髄炎(せきずいえん)という怖い病気を起こすこともあります。
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耳の周りの神経
ひどい帯状疱疹では顔や手足が麻痺することがある
耳のあたりが痛いと、そのうちに顔の動きが麻痺したり、手足の動きが麻痺する場合があります。
これは、帯状疱疹のウィルスが、顔面神経、脳、脊髄に感染していることを意味します。
顔面神経麻痺(がんめんしんけい・まひ)は、治る病気です。 しかし、治らない人、後遺症を残す人も少なからずいます。 子供の顔面神経麻痺(小児の顔面神経麻痺)は場合は、後遺症を残すことなく治癒することが多いです。[…]
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帯状疱疹による顔の麻痺
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帯状疱疹による手足の麻痺
帯状疱疹の治療
帯状疱疹の治療は下記の2つに分かれます。
- 帯状疱疹のウィルス治療
- 帯状疱疹後神経痛の治療
まずはウィルスをやっつける治療を行い、平行して神経痛(帯状疱疹後神経痛)の治療を行います。
帯状疱疹ウィルスの治療│バルトレックス・アメナリーフ
帯状疱疹のウィルス治療には、バルトレックス(バラシクロビル)と、アメナリーフの2種類が現在では主流です。
- 若年 → バルトレックス
- 高齢者 → アメナリーフ
- 腎臓悪い人(クレアチニン高い人)→アメナリーフ
従来の帯状疱疹ウィルス治療は、バルトレックスが主流でした。
しかし、高齢者や腎臓の弱い人がバルトレックスを飲むと、薬の血中濃度が上がることで、脳症を引き起こし、意識障害となる例が報告されるようになりました。
その後、アメナリーフが登場し、現在、高齢者や腎機能障害の人における帯状疱疹ウィルス治療は、アメナリーフが主流となっています。
アメナリーフのデメリットは、治療コストがやや高いことです。
料金比較|アメナリーフは超高い
- アメナリーフ7日間 1.8万(3割で6000円)
- バルトレックス7日間 5000円(3割で1500円)
アメナリーフの方が治療の料金が高いです。
しかし、バルトレックスよりも安全性が高いため、高齢者や腎臓が悪い人では、アメナリーフの方が主流です。
帯状疱疹後神経痛の治療│リリカ
帯状疱疹後神経痛の治療は、プレガバリン(リリカ)が主役です。
しかし、効果に乏しい場合は、さらに強い痛み止めや、うつ病の薬など、多岐にわたる治療薬を試していくことになります。
無効の場合は、ブロック注射を実施していきます。
いずれも無効の場合は、脊髄刺激療法を検討していくことになります。
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帯状疱疹後神経痛の専門治療
帯状疱疹後神経痛になりやすい人の特徴は『高齢者』
帯状疱疹後神経痛になりやすい人は、実は『高齢者』です。
特に80歳以上の方は、帯状疱疹後神経痛になりやすいと言われています。
一方で、50歳以下の方では帯状疱疹後神経痛にはほとんどなりません。
高齢者は、帯状疱疹の後遺症が残りやすい
帯状疱疹後神経痛は、高齢が最大のリスクファクターである.
臨床と研究; 97巻2号, 39-44, 2020
『80歳以上の帯状疱疹』は後遺症が残りやすい
帯状疱疹から帯状疱疹後神経痛への移行率は、50歳以下では2%であるのに対し、50歳以上20%、80歳以上では35%である.
Mayo Clin Proc; 82: 1341-1349, 2007
耳の前の痛み、顔の痛みで考える病気は?
- 三叉神経痛
- 帯状疱疹
- 副鼻腔炎(ちくのう)
三叉神経痛には、血管が接触しているもの、腫瘍が原因のもの、炎症が原因のものがあります。
多発性硬化症という難しい免疫の病気が関わっている顔の痛みもあります。
帯状疱疹の場合は、顔の神経(三叉神経、顔面神経)、首の神経(頚神経C2,3)に感染して痛みを来します。
副鼻腔炎(ちくのう)の場合は、『下を向くと痛い』、『喉の奥に鼻水が下りてくる』という症状があることが多いです。その場合は、耳鼻科を受診しましょう。
顔の痛みは、特殊な病気のこともある
三叉神経痛の2~6%が多発性硬化症によるものと考えられている.
MB ENT, 153: 46-51, 2013
顔の向きで痛い場合は、鼻の病気『ちくのう』かもしれない
『下を向いたり、寝返りを打ったりした時に痛みが強くなる』、『朝に痛みが強く午後は軽くなる』などの特徴があれば、副鼻腔炎による頭痛・顔面痛である可能性が高くなる.
総合臨床; Vol.60, 152-154, 2011