元気がないときは、『甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのう・ていかしょう)』かもしれません。
甲状腺ホルモンは『元気が出るホルモン』であり、このホルモンが少ない場合は元気が出ず、代謝も遅くなり、太ったりします。
甲状腺ホルモンがその人にとって少ないかどうかは、実は『甲状腺ホルモン』の数字だけではなく、『甲状腺刺激ホルモン』という数字を見て判断しています。
『甲状腺ホルモンは一見すると足りているようでも、実は足りていない』という、『潜在性甲状腺機能低下症』ことが時々起こります。
潜在性甲状腺機能低下症の診断は、『甲状腺刺激ホルモン』を調べることで予想がつきます。
甲状腺が原因で、物忘れや認知症が進んだ時は、『橋本脳症(はしもと・のうしょう)』かもしれません。 これは、『治る認知症』と言われており、きちんとした治療が望まれます。 問)妊娠すると奇形ができるかもしれな[…]
太る原因になる『潜在性甲状腺機能低下症』とは
元気を出すための甲状腺ホルモンが、一見足りているようでも、実は足りていない状態が、『潜在性甲状腺機能低下症(せんざいせい・こうじょうせん・きのうていかしょう)』です。
甲状腺ホルモンは、元気を出したり、代謝を早めるホルモンです。
ですので、甲状腺ホルモンがしっかり分泌されていると、体がシャキっとして、汗もよくかき、頭も冴えます。
しかし、甲状腺ホルモンが不足していると、元気がなくなり、代謝が遅いため食べた分だけ太り、頭がぼーっとします。
甲状腺ホルモンが大胆に不足していれば、疑って検査されるため診断は容易ですが、ホルモンが少々不足したくらいでは、しっかりとした症状がないため、ついつい見過ごされてしまいます。
しかし、血液検査で甲状腺刺激ホルモン(=TSH)を測れば、しっかりと異常をつかまえることができます。
診断のポイントは『甲状腺刺激ホルモン』の放出量
『甲状腺ホルモンが足りているかどうか?』を調べるためには、実は甲状腺ホルモン(=Free T4)の値を見るのではなく、『甲状腺刺激ホルモン(=TSH)』の値を見ています。
血液検査では、甲状腺刺激ホルモンは、『TSH』と記載されている項目になります。
甲状腺ホルモンは、『Free T4』または『FT4』と記載されている項目になります。
また、病気を正しく診断するためには、単に甲状腺刺激ホルモンが少ないだけではなく、他の病気ではないことを確認する『鑑別作業』も大切です。
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潜在性甲状腺機能低下症の定義
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同時に測定したFT4とTSH値の組み合わせで診断し、FT4が基準値内でTSHが基準値上限を超える値であること.
潜在性甲状腺機能低下症:診断と治療の手引き(日本甲状腺学会 研究班)
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鑑別するべき病気(医療者向け)
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潜在性甲状腺機能低下症と鑑別するべき病気
- non-thyroidal illness(NTI)
- 中枢性甲状腺機能低下症
- 副腎皮質機能低下症
- 甲状腺ホルモン補充療法中
Cooper DS, Lancet, 379: 1142-1154, 2012
意外に多い潜在性甲状腺機能低下症
潜在性甲状腺機能低下症は、人口の4-20%と言われています。
女性や高齢者に多いと言われています。
また、ヨウ素をたくさん食べるとなりやすいのでは、とも言われています。
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ヨウ素を多く含む食べもの
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ヨウ素は、昆布などの海藻類や、ひじきに多く含まれる
ヨウ素は、海藻の中でも、昆布に最も多く含まれています。
他の海藻類と比べても、昆布が圧倒的にヨウ素の量が多い食べものとなります。
潜在性甲状腺機能低下症は、軽症のことが多い
潜在性甲状腺機能低下症は、軽症のことが多いです。
ですので、仮に診断がついたとしても、安心できることが多いです。
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潜在性甲状腺機能低下症の重症度
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TSH(μU/mL) 軽症 4.5-9 重症 10以上 『甲状腺刺激ホルモン(=TSH)が、10 μU/mL以上』の場合は、治療を行った方が良いです。
治療は、飲み薬による『甲状腺ホルモン補充療法』です。
潜在性甲状腺機能低下症は、TSHの値により、軽症および重症に分類される.
約90%は軽症に分類される.
Cooper DS, Lancet, 379: 1142-1154, 2012
潜在性甲状腺機能低下症の原因は橋本病が多い
- 橋本病
- 薬の副作用
- 昆布・ひじきの食べすぎ
- 加齢
- 遺伝
甲状腺の機能が低い(甲状腺ホルモンが少ない)ときは、甲状腺を壊している病気(橋本病)のことが多いです。
他には、ヨウ素を含む食べもの(昆布やひじきなど)の食べすぎで、甲状腺刺激ホルモンが一時的に高くなることもあります。
その場合は、食べものに気をつけるだけで自然と治っていきます。
高齢者は、正常であっても、加齢とともに甲状腺刺激ホルモンの値が自然と高くなってきます。
ですので加齢による場合は、症状がなければ特に治療する必要はありません。
放置すると心筋梗塞や脳卒中になる場合も
潜在性甲状腺機能低下症になると、脳や心臓の血管が突然詰まるリスクが上がります。
特に、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が、10 mIU/L以上の場合は治療が望ましいです。
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特に治療した方が良い場合
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甲状腺刺激ホルモンが 10 μU/mL 以上の場合は、治療が望ましい
甲状腺刺激ホルモンが高い場合は、治療を行った方が良いとされています。
他にも、妊活中の女性や、不妊治療中の女性は、潜在性甲状腺機能低下症の治療を積極的に行った方が良いとされています。
また、動脈硬化や心不全のある方も、潜在性甲状腺機能低下症の治療を受けた方が良いです。
その他、抗TPO抗体が陽性の潜在性甲状腺機能低下症は、早めに治療をした方が良いとされており、抗TPO抗体の追加検査をした方が良いです。
一方で、お年寄りの方や高齢者の方は、潜在性甲状腺機能低下症が見つかっても、治療しなくて良い場合が多いです。
血中TSHが10 mIU/Lを超える症例では、冠動脈疾患や心不全、脳卒中、心血管関連死亡率増加との関連が示唆されている.
TSHが 10 mIU/L未満の場合でも、甲状腺機能低下の自覚症状がある場合、抗TPO抗体が陽性の場合、動脈硬化や心不全のある場合は、潜在性甲状腺機能低下症の治療を考慮すべきである.
Bekkering GE, BMJ 2019; 365: I-2006
高度生殖医療を予定している潜在性甲状腺機能低下症の女性は、抗TPO抗体の有無に関わらず、TSH 2.5 mIU/Lを超える場合は、甲状腺ホルモンの補充療法を推奨.
米国甲状腺協会ガイドライン
65歳以上の高齢者では、潜在性甲状腺機能低下症の生命予後は良好である.
Gussekloo J; JAMA, 292: 2591-2599, 2004
放置すると、もの忘れや認知症が進む可能性あり
甲状腺の機能が低下すると、認知症の症状が出ることがあります。
ですので、物忘れや認知症やで病院を受診すると、原因が甲状腺だったりすることもあります。
甲状腺の機能が低下して認知症になっている場合は、甲状腺ホルモンを補充すれば認知症が改善します。
つまり、『甲状腺が原因の認知症』は、『治る認知症』ですので、医療機関を受診して、血液検査で甲状腺の値を調べてもらうことで『治る認知症』の見逃しが少なくなります。
また、特殊な免疫が関わっている場合は、『橋本脳症』という、ステロイド薬が効くタイプの認知症かもしれません。
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『甲状腺が原因の認知症』の症状
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甲状腺機能低下症を放置していると、無気力になったり、日中からよく寝てしまうようになります
甲状腺の機能が落ちている状態を長期間放置していると、元気がなくなり、うとうとしたりするようになります。
高齢者では、しばしば認知症(特にアルツハイマー型認知症)と間違えられたりします。
治療方法があるタイプの認知症ですので、「認知症かな?」と思ったら、一度は医療機関できちんと血液検査をしてもらうようにしましょう。
その時、『甲状腺の自己抗体(じこ・こうたい)』も調べてもらい、橋本脳症との区別をしておくことも大切です。
甲状腺機能低下症による症状
- 無気力
- 易疲労感
- 記憶力低下
- 傾眠
- 動作緩慢
- 寒がり
原発性甲状腺機能低下症の診断ガイドライン, 日本甲状腺学会 より抜粋
ダイエットが上手くいかない時は、潜在的甲状腺機能低下症かも?
甲状腺機能低下症では、代謝が落ちるため、やせにくくなります。
それは代謝を促す(うながす)甲状腺ホルモンが少ないからです。
そのホルモンバランスが崩れた状態で、無理にダイエットをしようとすると危険です。
筋肉量の割にやせにくい人は、一度甲状腺ホルモンの検査をした方が安全にダイエットに望めます。
治療しない場合でも、半年に1回の血液検査を
甲状腺刺激ホルモンの値が低くて治療しなかった場合でも、6ヶ月に1回の血液検査をした方が良いです。
なぜなら、将来的に、甲状腺刺激ホルモンの値が上がって、しっかりとした『甲状腺機能低下症』になるかもしれないからです。